■開戦前夜
「東アジアは現在、歴史上最も緊張が高まっている」と、陸将補が言った。「歴史上最も?」。20世紀に限っても戦乱を繰り返してきたこの地域で最も緊張が高まっているということは、もはや戦時中のようなものということか。見つめ直した陸将補の表情は、確信に満ちている。「開戦前夜」とも口にした。
飲み屋での話ではない。自衛隊沖縄地方協力本部が公式に開いたメディア向け説明会の場だった。本部長の陸将補は10人ほどの記者を前に、中国の脅威を説いた。
2021年4月、沖縄島南部の陸上自衛隊知念分屯地。中距離地対空誘導弾の改良型が全国で初めてこの基地に配備され、そのお披露目を兼ねていた。敵の航空機やミサイルをより正確に迎撃できるという。
南九州から台湾に至る琉球弧では近年、自衛隊の増強が猛烈な勢いで進んでいる。与那国島、奄美大島、宮古島に新たな基地ができた。石垣島、馬毛(まげ)島でも建設工事や計画が進んでいる。自衛隊と米軍は島沿いに最新鋭ミサイルをずらりと並べ、中国の海洋進出に対抗を図る。米中双方が琉球弧を「万里の長城」と表現している。米国は「防御壁」と見て、中国は「障壁」と見る。イメージはよく伝わってくる。
「壁」は何か別の大切な物を守るために造られる。いざという時、壁そのものは守られるだろうか。守る価値があるとみなされるだろうか。
その答えは、足元に眠っている。
具志堅の遺骨収容をわずかな時間だけ手伝わせてもらったことがある。借りた鎌をうまく使えないから、両手で土をすくって骨片をより分けた。でも、爪の先より小さいようなかけらは骨か石か、とても判別できない。「遺骨収容が終わることはない」という具志堅の言葉の意味が体感として分かる。収容しながらも手のひらからこぼれ落ちていく喪失感がある。
白茶色の地面から、同じ色が染みた板状の骨片が出てきた。縫合部のぎざぎざがある。
頭蓋骨だ。