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■引き返せない自衛隊

 2021年の慰霊の日の未明、私は献花を終えた旅団長に質問を投げ掛けた。旅団長は歩みを止めず、眼前の暗闇を見据えたまま答えた。

――今回は人数が少ないのですがどういうことでしょうか。

「私的参拝ですので特に。各自の考えかと思います。(新型コロナウイルス)緊急事態宣言下なのでそれぞれが考慮しながら行動していると思います」

――去年は30人くらいでした。今回、制服を着けた方は減っているんですが旅団長の指示でしょうか。

「ちょっと分かりません」

――自身が指示したかどうかも分からない?

「指示はしていません。去年の人数も分かりません」

――批判が起こる中で止められないことが問題だと思うのですが。

「集団参拝ではなく個人的に参拝しているので。慰霊の日に、戦争で亡くなられた方々の冥福を祈る思いです」

――旅団長がお付きの者を連れていては私的参拝になりません。

「私的参拝です」

 この日の午後に判明したことだが、15旅団は前年、中央の陸上幕僚監部から「地域の住民感情に十分配慮し、今後はより熟慮の上で対応するように」と注意を受けていた。旅団長も言う通り、コロナ禍が深刻化し、沖縄には緊急事態宣言も出ていた。県民から批判の多い「伝統」となってしまった集団参拝を取りやめる条件はそろっていた。旅団長が個人として1人で来るのなら、批判も少ないはずだ。

 それでも、止まらない。引き返せない。日本軍もそうだった。戦前と戦後は、確かにつながっている。

 この件で、15旅団の幹部と話をしたことがある。幹部は「亡くなった方々全員を追悼するという意味で、慰霊搭を4カ所回っている。それは駄目なんでしょうか」と率直に聞いてきた。確かに集団参拝の一行は牛島らの黎明之塔だけではなく、全戦没者を追悼する国立沖縄戦没者墓苑なども回る。私も思うところを率直に述べた。「全員を追悼するならば、戦没者墓苑だけでいいはずです。日本軍司令官を慰霊しているうちは、自衛隊が真の意味で沖縄に根付くことはできないと思っています」

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だらりと始まった日本の戦後