受給者にとっては、ずいぶんうれしい新制度だ。ところが、である。この「5年前繰り下げみなし増額」が認められるのはさかのぼり請求した場合に限られ、繰り下げ待機中に年金を請求しないまま死亡した場合には適用されない。その方針が公表されたのが、冒頭で紹介した文書だ。

 死亡した場合、支払うべきだったものがまだ支払われていないという意味で、「未支給年金」と呼ばれる年金が遺族に支給される。同じく73歳で死亡した場合は、65歳で受給権が発生しているので8年分もらう権利があるが、時効ルールで3年分は消滅、死亡時前の5年分となる。

 お気づきだろうか。これは70歳超でさかのぼり請求した場合と、構図はまったく同じである。ところが、文書には次のような趣旨のことが書かれてあるのだ。

「本政令案においては、未支給年金について『5年前繰り下げみなし増額』の規定を適用するための特段の措置は行いません。このため、未支給年金には『5年前繰り下げみなし増額』は適用されません」

※厚生労働省の資料をもとに一部加工 (週刊朝日2021年9月10日号より)
※厚生労働省の資料をもとに一部加工 (週刊朝日2021年9月10日号より)

 厚労省のこの方針を適用すれば、70歳をすぎて死亡した場合は、今の制度と同じ65歳からの年金額が5年分支払われるだけになる。

 繰り下げの年齢拡大に応じて70歳での42%増のさらに上をめざして懸命に続けても、これでは死亡してしまえばその間の努力はすべて「パー」になってしまう。

 先の三宅氏が首をかしげる。

「両者の差が大きすぎます。著しい不公平といってもいいほどです」

 年金で「不公平」は許されないことだろう。三宅氏は、そもそも「5年前繰り下げみなし増額」という新制度自体に法律上、無理があると見る。

「だって、そうでしょう。繰り下げの意思を示していないのに繰り下げしたとみなすわけですから。今でも70歳を超えて請求した場合に『みなし規定』がありますが、これは70歳以降は増額がない制度のなかでの特例的な取り扱いです。それを70歳超も増額が続く繰り下げ制度全般に広げるのは、相当な“拡大解釈”のように思えます」

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