三宅氏が心配するのは、せっかく高まり始めた繰り下げ“歓迎ムード”への影響だ。

「これでは70歳を超えた繰り下げはデメリットが大きすぎると言わざるを得ません。繰り下げする意欲がしぼんでしまう可能性がありますね」(同)

 確かに、そうだ。こうしたリスクが明らかになれば、70歳を超えての繰り下げには尻込みする人が増えるだろう。幸い、「5年前繰り下げみなし増額」が施行されるのは2023年4月。まだ1年半余り、時間がある。

 繰り下げのリスクでいえば、本誌20年10月9日号で取り上げた「妻に先立たれたら繰り下げできなくなる」とする論点もある。今回の文書でも、年金相談の現場で、この論点が問題視されているとする意見があった。

 これは自分の老齢年金以外のほかの年金の受給権者になってしまうと、65歳時点では「そもそも」、それ以降は受給権の発生時点で繰り下げができなくなるという問題だ。いまの年金世代の妻たちは、学校を出て短期間、会社で働き、専業主婦になった例が多く、老齢厚生年金は少額のことがほとんどだ。それでも妻が先に亡くなると、妻の遺族厚生年金の受給権が夫に発生し、少額の権利のために夫が繰り下げできなくなってしまうのである。

 この問題を解決するには政令ではなく法改正が必要だが、今回の年金改正とは関係がないため、厚労省は文書では「今後の参考にする」と回答するのみだった。

 三宅氏は、この点を含めて制度改正を求める要望書を作成し、賛同者を集めて今後、関係各所に提出していく構えだ。

 繰り返すが、繰り下げは人生100年時代の武器として期待されている。ぜひとも公平で使い勝手がよい制度にしてほしいものだ。(本誌・首藤由之)

週刊朝日  2021年9月10日号

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首藤由之

首藤由之

ニュース週刊誌「AERA」編集委員。特定社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー(CFP🄬)。 リタイアメント・プランニングを中心に、年金など主に人生後半期のマネー関連の記事を執筆している。 著書に『「ねんきん定期便」活用法』『「貯まる人」「殖える人」が当たり前のようにやっている16のマネー 習慣』。

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