※写真はイメージです (GettyImages)
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 受給を遅らせれば増額されていく年金「繰り下げ」。人生100年時代の“武器”として期待が高まっているが、来年春からの上限年齢拡大に伴って「不公平」とも思える事態が発生することが新たにわかった。70歳超で死亡してしまえば、一切の恩恵が得られないというのだ。

【図で見る】70歳超“繰り下げ”は「生きる」と「死ぬ」で大違い

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「政令に入れたほうがいいと思っていたことが明確に否定されていたので、『結果』を読んでビックリしました」

 こう話すのは、年金実務に詳しい社会保険労務士の三宅明彦氏だ。

 年金大改正は来春からその主要な改正が始まる。法施行に伴って、具体的な運用などを定めた政令も改正される。この5月から6月にかけて、その政令改正案について国民から意見を求めるパブリックコメントを募った。

「結果」とは、厚生労働省に寄せられた意見の概要と、意見に対する厚労省の考え方をまとめた8月6日付の文書をさす。

公表された年金に関する政令案へのパブリックコメントの結果(専用サイトから)
公表された年金に関する政令案へのパブリックコメントの結果(専用サイトから)

 三宅氏が続ける。

「いくつか疑問があるのですが、とりわけ納得がいかなかったのは、70歳超の繰り下げの部分です。70歳をすぎて不幸にも死亡すると、繰り下げ待機の成果を一切認めないと厚労省はいうのです」

 一方で、同様のケースで生きている人が年金を請求すると、繰り下げの意思を示さなくても示したものとする「特例」ともいえる取り扱いをしてくれるという。

 元の年金額にもよるが、平均的な元会社員を想定すると、もらえる金額に100万円単位の差が生じることがわかった。

 来春から繰り下げの上限年齢が「70歳」から「75歳」に拡大されるのは、今回の大改正の目玉の一つだ。その目玉施策で大きな不公平ともとれる事態が発生するというのである。いったい、どういうことなのか。

 年金繰り下げは、本来は65歳で支給開始となる年金を、受給時期を遅らせてもらう制度だ。長く遅らせるほど年金額は増える。1カ月遅らせると0.7%増。現行制度では70歳まで最長5年遅らせることができ、42%(0.7%×12カ月×5年)増えた年金をもらえる。それを増額率はそのままで「75歳」まで延ばす。

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