「斑鳩」のラーメンは、魚介の香りとうまみに、動物系の濃厚な厚みが加わり、食べただけでリッチなおいしさを感じる一杯だ。店の外観や内装から女性も入りやすく、花見シーズンや日本武道館でイベントがある日は100人を超える行列ができることもあった。たちまち東京を代表する人気店となり、「TRYラーメン大賞」のランキングの常連でもある。11年には東京駅一番街の「東京ラーメンストリート」にも出店し、16年には本店を市ヶ谷に移転するが、変わらぬ人気を誇っている。坂井さんは開店から21年経った今も厨房に立ち、味のブラッシュアップを続けている。
「ののくら」の白岩さんは、師匠・坂井さんが人生を変えてくれたと当時を思い出しながら語る。
「自分のベースの部分を作ってくれたのが坂井さんです。本気で細かな部分まで考え抜き、やることすべてが美しい。客商売の基本であるホスピタリティーにあふれていて、坂井さんの姿を浮かべると自分も基本に立ち返ることができます」(白岩さん)
坂井さんは、まな弟子である白岩さんの飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍を心から喜んでいる。
「開店前から自分だけのものづくりにこだわっていた彼の姿を見ながら、自分がラーメン店を始めた頃のことを思い出していました。自分が教えてきたことがこうやって伝わっていくのかと、構想を聞いていくうちに私もゾクゾクしてきましたね。ラーメンの根本である手作りにこだわることには大きな意味があると彼には伝えました。まずは思うがままに突っ走って、さらにいい店づくりを頑張ってほしいと思います」(坂井さん)
坂井さんが長年突き詰めてきた本質がしっかり弟子の白岩さんに伝わり、また新たなオンリーワンが生まれている。これぞ人と人の繋がりからしか生まれない最高の伝統であると感じた。(ラーメンライター・井手隊長)
○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて19年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。Twitterは@idetaicho
※AERAオンライン限定記事
井手隊長
なぜこの立地で? 住宅街に「ポツンと一軒のラーメン屋」が大人気店に成長したワケ