日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介する本連載。“手打式”の麺で圧倒的な個性を放つ名店の店主が愛する一杯は、20年以上も東京のラーメンシーンを牽引する師匠の紡ぐ一杯だった。
■睡眠時間は4時間 クオリティを追求したミシュラン店の今
JR亀有駅から徒歩3分のところにある名店「手打式超多加水麺 ののくら」。2017年のオープン以来、店主の白岩蔵人さんがすべて手作りで作る心のこもった一杯に連日大行列ができる人気店だ。
【写真】濃厚すぎる… 東京のラーメンシーンを20年以上牽引する一杯はこちら!
白岩さんが毎日仕込むのは、加水率53~57%という超多加水の極太麺。縮れがしっかり付いていて、モチモチの食感だ。老鶏の丸鶏と鶏ガラ、さらに鶏肉を入れて炊いたスープに、煮干し、うるめ節、鰹節、昆布などの魚介スープをブレンド。醤油ダレには生揚げ醤油を使用する。この二つがぶつかり合って実に奥深い旨味を引き出している。
業界最高権威ともいわれる「TRYラーメン大賞」では新人大賞2位となり、開店翌年には「ミシュランガイド東京」のビブグルマンを獲得。はた目には順風満帆かと思われていたが、実際の白岩さんは忙殺されていた。開店以来お客さんはどんどん増えて反響を肌で感じていたが、自分がその勢いに追い付いていない感覚があったという。
「ラーメン作りの課題ももちろんありましたが、それ以上に経営がうまくいきませんでした。原価と手間がかかりすぎていたんです。こだわりの強さから、仕込みの時間もかかりすぎていました。昼夜の営業を終え、夜中の2時ぐらいまで仕込み、店で仮眠して6時からまた仕込みをするという生活で、これでは続かないなと思いました」(白岩さん)
細かいマイナーチェンジを重ねながら、少しずつクオリティを上げていった。味に自信がついてくると、今度は無駄をなくす努力をした。営業時間も昼帯のみにし、仕込みの時間をしっかり確保した。結局、軌道に乗るまでは3年かかったが、振り返ってみると少しずつ向上していったことで、クオリティも経営面も安定するようになったという。
「ののくら」の人気とともに、手打ち麺の再ブームもやってくる。