「九段 斑鳩」の特製濃厚らー麺は一杯1000円。菅野製麺を使っている(筆者撮影)
「九段 斑鳩」の特製濃厚らー麺は一杯1000円。菅野製麺を使っている(筆者撮影)

■「お金に糸目はつけませんから…」 坂井さんのこだわり

 ラーメンの作り方は、本に載っていた小さなコラムをヒントにした。そこに書いてあったのは、「豚と鶏の骨を洗う」「チャーシューを煮る」「チャーシューの煮汁を醤油ダレにする」の三つだけ。坂井さんは早速肉屋に豚のゲンコツ、鶏ガラを買いに行ったが、はじめは怖くて骨が触れなかったという。

“本物のダシ”を追求する中で、絶対に使いたいと思ったのが鰹節と昆布だった。築地の市場を訪れると、見るからに目利きの乾物屋の店主がいた。坂井さんはその人を見るなり、ここから仕入れると決めてしまう。

「そこは一流料亭にしか卸していない乾物屋さんで、ラーメン屋でこれを使い続けるのは無理だと断られました。『絶対に日本一になるから使わせてください。お金に糸目はつけませんから』と何度も頭を下げて、ようやく付き合いが始まったんです。ラーメンに使うにはものすごく高価でしたが、絶対に結果を出してやるんだという気持ちでしたね」(坂井さん)

 こうして動物と魚介のダシを贅沢に合わせたラーメンが出来上がった。高級食材をふんだんに使った原価率60%という前代未聞の一杯だった。

 並行して物件探しもしていた。日本のど真ん中から発信したいという思いで、都内の物件を探した。歴史ある街がいいと築地、四谷、目黒など各所をあたったが、条件がなかなか合わなかった。その中で、九段下の物件が見つかった。坂井さんが個人的にもなじみのある街で、条件にも合うということでここに決めた。

 だが、物件が決まった後が長かった。店のレイアウトや丼のチョイス、壁の塗り直しなど、こだわり続けた結果、契約してからオープンまで半年以上かかってしまった。「とにかく本物を」と石川県の九谷焼(くたにやき)の丼やノリタケのスプーンなど、食器も一流のものをそろえた。こうして、00年4月、「九段 斑鳩」はオープンした。

 店名は、家柄にこだわらず有能な人を集めて国を良くしようという聖徳太子の「冠位十二階」に感銘を受け、そのゆかりの地「生駒郡斑鳩町」の名前から拝借。ブランドカラーも冠位十二階の最上位の色・紫を基調にした。

 開店当日から、30人の行列ができた。半年間ずっと準備していた気合の入った店として近所で話題になっていたのだ。想定外の反響に焦った坂井さんは、初日から生の麺をそのまま出してしまい、怒られて返金したという苦い思い出もある。

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