■成り上がりたい気持ちもあった
元田さんは1994年、桃山学院大学を卒業したころから「街で人を撮りたくて」、スナップショットを写すようになった。
95年に大阪ビジュアルアーツ専門学校に入学すると、翌年、準太陽賞(平凡社主催)を受賞。それきっかけに路上で出会った人のフォトエッセー「ON THE STREET」を大阪新聞で1年間連載した。
「その記事も今回、展示するんです。それを読むと、いま撮っている感覚とまったく一緒。35ミリ判カメラにフィルムを詰めて、出会った人に声をかけて撮影するところも25年以上、まったく変わらない」
ときどき、大阪に帰ると、「当時、撮らせてもらっていたパンクの子が立体駐車場で働いていたりする。歳だけとって、同じ格好で。変わらないのがすごいな、と思って。アメリカ村(大阪市・西心斎橋)に革ジャンを着たホームレスの人がいたんです。で、いまもたまにいてる。一日中、公園で昔と同じようなことをしている。それもすごい。結局、自分自身も変わっていないから、そこに面白さを感じます」。
それでも若いころを振り返ると、新しことをしたかったという。
「一時期は試行錯誤というか、ああしたいな、こうしたいなと思っていた。次はどんな作品をつくろうか」と、変化することが楽しみだった。
「雑誌で活躍したいな、とか。成り上がりたい気持ちもあったんです。でも、いまはそういう気持ちがぜんぜんなくなった。結局、学生時代に見つけていたんですね。自分がほんとうにやりたことを。それに気づかず、いろいろなことをしちゃった。でも、いまはすごく安心して、確信して同じことをやり続けられる。ぐるっとひと回りして昔に戻ってきた気がします」
■体でぶつかり合って
一方、変わったこともある。今回展示するのは2016年から撮影した写真だが、ちょうどそのころレンズを「ずっと使ってきた35ミリ」から「めっちゃ広角の21ミリ」に変えた。
その理由について、「大阪新聞で連載していたころみたいに、『人を見つけて、ガーンと寄っていくみたいな撮り方』がいいなあ、と思って」と、説明する。
「21ミリならこの距離でも全身、撮れるんですよ」
元田さんと筆者との間は約1メートル。
「関西人気質なのか、撮影距離はかなり近い。それでも、着ているものといっしょに背景の街の雰囲気を画面いっぱいに入れられる。35ミリだと人に向かって行って、『撮らせてください』と言ったときに、下がらないといけない(笑)」