撮影:長谷川佳江
撮影:長谷川佳江

 しかも、1回断られたくらいではあきらめない。

「気が変わらないだろうか、と思って、断られてももう1回行って。3回くらい断られて、やっと納得する。うーん、すごく粘り強いというか、スッポン的ですね。それでも、撮影させてもらえたのは10軒に1、2軒くらい」

 最終的に取材できたのは20軒ほど。作業現場に立ち入ることを許されると、グイグイと対象に迫っていった。

「ええかっこで言うと、その人の職人魂に迫っていきたいから、近寄っていってしまう」

 そんなわけで、「夏場は穴あきだらけのTシャツ」に。

ファッションじゃないですよ。溶接の火花で穴が開く。もう、何枚も焦がしてます。旋盤の削りくずが飛んできてけがしたりとか」

 撮影は「お仕事におじゃましている、という意識がすごくあった」ので、短時間を心がけた。

「でも、不器用な写真家なんで、何度か行かしてもらうことで作品を完成させていく。ちょっと間をおいて、『また、すいませーん』、という感じで、自分がふに落ちるまでやる。だから、私は近いところしか撮らないんですよ。遠いところは取り直し、ききへんから。そのこだわりは、経験を積むごとに強くなっていきましたね」

撮影:長谷川佳江
撮影:長谷川佳江

■「ほんまに俺らはラストサムライやな」

 震災後も長田地区の鉄工所は苦難の連続だったという。

「工場が全部、つぶれてしまって、一からやり直して、まだローンを払い続けている人もいてはりますしね。でも、『長田が好きやから』と、残っているんですよ」

 昨年からは新型コロナの影響で、元請けからの受注がなくなるのでは、という不安から撮影を断られたことが何件もあったという。

「ほんとうにいまは悲惨な状況で、『仕事どうですか?』と、声をかけると、『見たらわかるやろ!』って、怒鳴られたり」

 長谷川さんは、この苦境のなかでも黙々と己の技を磨き、意地をみせる職人たちの姿が映画「ラスト サムライ」の世界観と重なるという(明治維新のころ、時代の流れに反旗を翻す侍たちを描いた作品)。

「これだけ形勢不利ななか、腕一本で危険と隣り合わせで、がんばり続けている。それで、『ラストサムライさん』と、呼んでいるんです。それを鉄工所の後期高齢者の人たちに言うと、『ほんまに俺らはラストサムライやな』って、笑ってくれはるんです」

(文=アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】長谷川佳江写真展「鉄の華 美しき下町工場の侍」
アイデムフォトギャラリーシリウス 6月3日~6月9日