麺屋 中川會 錦糸町店/東京都墨田区江東橋4-30-15/11時30分~15時00分、18時00分~22時00分/筆者撮影
麺屋 中川會 錦糸町店/東京都墨田区江東橋4-30-15/11時30分~15時00分、18時00分~22時00分/筆者撮影

■「とにかく早くテレビに出たい」 ラーメン評論家の写真を貼り出したワケ

「麺屋 中川會」。中川大輔さん、陽子さん夫婦が11年に住吉で開業し、現在は錦糸町に本店を構える濃厚つけ麺の人気店だ。つけ麺を食べた後に残ったスープでカレーを作ってくれる「カレ変ライス」がメディアで話題になった。女将である陽子さんの明るい接客も人気の店である。

 もともと大輔さんはビルクリーニングの仕事をしていて、陽子さんは漫画家のアシスタントと会社員の兼業。二人でラーメンを食べ歩くのが趣味だったという。大輔さんのラーメン好きが高じて、土日には圧力鍋で豚骨を炊いてラーメンを作るようになった。

中川會の「つけ麺」は並盛り200グラムで800円。2種類のチャーシューに味玉がのった一杯は格別だ(筆者撮影)
中川會の「つけ麺」は並盛り200グラムで800円。2種類のチャーシューに味玉がのった一杯は格別だ(筆者撮影)

 ラーメンを作り始めて1、2カ月経った頃、大輔さんは突然こう言った。

「俺ラーメン屋をやる。辞表を出してきてくれ」

 一度言ったら聞かない大輔さん。二人は会社を辞め、ラーメン店開業に向けて動き出す。

 二人の行きつけだった「肉そば けいすけ」の店長にラーメン店をやりたいことを相談すると、思いもよらぬ言葉をもらう。

「今すぐにやった方がいいですよ!ラーメン屋は、お客さんが目の前でうれしそうにラーメンを食べる姿を毎日見られる。その顔を見ていると可愛くてしょうがなくなるんですよ」

 料理がもともと得意だった大輔さん。根拠のない自信を持っていたが、それをさらに本気にした瞬間だった。

“濃厚つけ麺”をウリにすることも決めていた。当時はつけ麺の行列店が次々出てきていて、それを取り上げるメディアも多かった。大輔さんは、大人気店の「六厘舎」のスープをイメージしながら、自分の味を追求していった。

「中川會」女将の陽子さん。「ラーメンを楽しく作れる環境が一番」だと力強く語る(筆者撮影)
「中川會」女将の陽子さん。「ラーメンを楽しく作れる環境が一番」だと力強く語る(筆者撮影)

 こうして、11年4月に墨田区の住吉で「中川會」はオープンした。二人とも30歳の頃だった。スナックの居抜き物件を見つけ、床のコンクリートやテーブル、椅子など全てDIYで店を作った。

「飲食店経営もまったくの素人だったので、普通のお店が10年でやることを1年でやらないとダメだと焦りがありました。とにかく早く“テレビに出ること”を目標にしていました。評論家さんの写真をロッカーに貼り出して顔を覚えておき、ちょっとでも似ている人が来たら声をかけていました(笑)」(陽子さん)

「ラーメン官僚」田中一明さんが来店し、テレビで紹介したことをきっかけに開店1年目から人気店に成長。同年、曳舟にスープ工場を作り、まとめてスープを作れる体制にすることで、イベントなどにも出店するようになる。

 ラーメン屋の開業とともに、二人の関係性も変化した。大輔さんはスープ工場で寝泊まりし、“別居婚”スタイルになった。大輔さんがラーメンに集中することで、味に迷いが出ず、日々美味しさを追求できる。

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