日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介する本連載。新宿・歌舞伎町で勝負し「焼きあご塩ラーメン」で大ブレイクを果たした女性店主の愛する一杯は、ラーメン好きの夫婦が勢いで開業し、お互いを支え合いながら作り上げた濃厚つけ麺だった。
■多店舗展開は現場重視 社長が「言って聞かせ、やって示す」
「焼きあご塩らーめん たかはし」。2015年、新宿・歌舞伎町にオープンし、トビウオの“あごだし”を使ったラーメンで大人気の店だ。新潟生まれの店主・高橋夕佳さん(38)の地元ではポピュラーだったあごだしも、オープン当初都内ではあまり見かけなかった。そこに目を付けて、トビウオの香ばしい香りが特徴の塩ラーメンを作り、大ブレイクした。
歌舞伎町(新宿本店)での出店は大きな挑戦だったが、高橋さんの理想はそのさらに上にあった。多店舗展開をしたのである。16年に上野店、17年に銀座店、18年には歌舞伎町に2つ目の店舗(歌舞伎町店)と渋谷店をオープンさせ、負け知らずの売り上げをたたき出した。
人気店が急に店舗展開すると、味やクオリティをキープできず失敗するという話はよく聞く。「たかはし」はどのようにクオリティを保ったのか。
「社長が現場に入って、言って聞かせ、やって示すのは最強のマネジメントだと思うんです。ただこれができるのは3店舗まででした。今では、管理の仕組みを作り、その仕組みが機能しているかどうかの確認と、その精度を上げるために現場をよく見るようにしています」(高橋さん)
定期的に社長訪店を行い、ラーメンの味や見た目だけでなく接客やクリンリネスのチェックなどを入念に行う。味がブレていたり、接客に問題があったりした場合は、それを責めるのではなく、仕組み自体を見直していく。たとえレシピを真似されても怖くないレベルにまで、接客やクリンリネスのレベルを上げるのが高橋さんの社長としての仕事だ。
順風満帆に見える「たかはし」だが、新型コロナウイルスの影響は大きい。夜間売り上げが好調だった繁華街は、特に大きな影響を受けた。
「これまでは大都市に出店し、営業時間を長くして売り上げを保ってきましたが、これからの時代は生活圏に出店していくべきだと判断しました。川崎、大船、溝ノ口に出店し、郊外での成功事例を増やしていく段階です」(高橋さん)
今年からはフランチャイズチェーン(FC)展開にもチャレンジする。直営店は1都3県に絞り、FCで地方にブランドを広げていく予定だという。味だけではなく心を豊かにできる「特別な日常」の体験を提供できるチェーンが、目指すポジションだ。「規模」と「価値」の両方を実現させるべく、「たかはし」はさらに上を目指していく。
そんな高橋さんの愛するラーメンは、墨田区にある夫婦で切り盛りするお店の濃厚つけ麺だった。