写真家・公文健太郎さんが北海道から鹿児島県まで全国8つの半島を撮り歩いた作品集『光の地形』(平凡社)を出版した。これまでの『耕す人』(平凡社)、『地が紡ぐ』(冬青社)、『暦川』(平凡社)に続くシリーズの4冊目となる。公文さんに聞いた。
公文さんが「半島」をテーマに撮っていることを知ったのは2年前。キヤノンのミラーレスカメラ「EOS RP」のプロモーション動画「半島」をインターネットで見つけたときだった。
「基本、ぶっつけ本番」の撮影旅。動画を再生すると、面白そうなものを見つけたとたんに走っていく公文さんの姿が。魚売りのおばちゃんと出会えば、いきなり話しかける。
「お母さん、ぼく、ちょっとついていってもいいすか?」
「うーん、時間かかるよ」
「いいよ、全然いい、暇だから」
あっという間に相手との距離を縮めてしまう茶目っ気たっぷりの表情、人情味のある話しぶり。昔、「西遊記」に孫悟空役で出演していた堺正章の雰囲気にそっくりだ。
北海道から鹿児島県まで「8半島にはそれぞれ意味がある」
そんな公文さんが出来上がったばかりの写真集を持ってやってきたのは東京・青山の古めかしい喫茶店。店の照明と同じオレンジ色の景色が表紙に写り込んでいる。
雲が流れる空。ススキのような細長い葉が目の前をたなびいている。その遠く奥のほうで白波が打ち寄せ、弧を描く海岸。海に突き出た港の堤防。山なみの迫る細長い平地に暗い色の家々の屋根がへばりついている。
そこに明かりをともすような「光の地形」というタイトル。「日本は、半島のつらなりである」と書かれたオビ。大小さまざまな半島をつなげていくと日本になるという――確かにそのとおりだ。
公文さんが「なんとなく、半島をやりたいなあ」と思い始めたのは7、8年前。
半島といえば、『千年楽土』(ブレーンセンター)で紀伊半島を撮った百々俊二さんや、『かんながら』(PlaceM)で房総半島を撮った須田一政さんが思い浮かぶ。
「やっぱり、半島というのは面白いと思うんですね」
三方を海に囲まれながらも一方は陸地とつながっている地形。そんな隔絶された行き止まりの場所にタイムカプセルのように保存された文化の濃さ。一方、海の向こう、外界には開かれている。特に明治時代までは海路がいまよりもずっと身近だった。