昨年1月に肺がんで亡くなった動物写真家、久保敬親さん(享年71)が北海道から沖縄まで約200種類の野鳥をまとめた写真集『日本鳥類図譜』(山と溪谷社)を出版した。
<日本の鳥たちのすばらしさを知ってもらうために、単なる写真集ではない、見て、読んで楽しめる本をつくりたかった>(写真集のまえがきから)
1947年、新潟県・佐渡島生まれ。美しい日本の自然と、そこに暮らす野生動物の生きざまに魅せられ、一貫して「日本の野生動物」にこだわり続けた。
89年、写真展「鳥Birds」の会場で出会って以来、久保さんと親交のあった元東京新聞写真部カメラマン、堀内洋助さんに聞いた。
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誰も撮らないような当たり前の鳥を一生懸命に撮った
ぼく自身も野鳥写真家なんです。東京新聞に写真企画「探鳥」を23年間連載しました。久保さんはぼくの師匠なんです。
この写真集を見ると、ゾクッとする。鳥肌が立つというかね。
久保さんは、野生の一瞬に光や気象の変化をからませて、ドラマのように共感を呼ぶ写真を撮れる人だから、ファンが多いんです。
この写真集にはぼくと一緒に撮影に行ったときに久保さんが写した作品が15枚入っています。
動物と鳥、両方を一生懸命に撮っていましたけれど、本人は鳥が大好きだったんです。小さいころから。
久保さんは小学校5年生のときに佐渡から東京に引っ越してきた。高校時代、生物部に入ると毎日のように巣箱を作って、週末になると奥多摩に巣箱をかけに行った。大学時代も含めて7年間。写真の前に、とにかく鳥が好きだった。
2000年に「野生動物が身近にいるところに行きたい」と、北海道中標津町に移り住んだんですけれど、上京して関東近辺の野鳥を撮影するときは「足」が必要だから、ぼくが車を出して運転手を務めた。20年近く、あちこち行って、一緒に歩きました。奥日光、利根川や多摩川流域、千葉県・印旛沼、埼玉県の田園地帯。
久保さんはアラスカや中国にトキを撮りに行ったことはありますけれど、国内の撮影に非常にこだわっていました。身近な公園とか、都市近郊が好きでした。
珍しい鳥を追いかけるタイプではなくて、ふつうの鳥をじっくりと撮る人でした。シジュウカラとか、誰も撮らないような当たり前の鳥を一生懸命に撮っていた。
鳥を小さく写して、まわりの環境や季節感を入れた写真が好きでした。
嫌いだったのは、鳥を餌づけして撮ること。そういう人に対しては本当に怒っていた。あるがままの自然を撮る人でしたから。