「駅から徒歩3分と一見良さそうな場所ですが、保土ヶ谷にはオフィスも学校もほとんどなく、そもそも人が少ないんです。飲食店も少なくて、商店街の3分の2はシャッターを閉めている状態。立地が悪かったと気付きました」
売り上げはオープン当初の半分以下にまで落ち込む。しかし、それでも常連客が残っていたこともあり、味の手ごたえはあった。街に人がいないのであれば、味で人を呼ぶしかない。櫻井さんは愚直に味のブラッシュアップを続けた。
すると、少しずつ雑誌などメディアの取材依頼が来るようになる。18年には業界最高権威とも言われる「TRYラーメン大賞」で新人賞のしょうゆ部門第6位にランクイン(第7位が「Free Birds」)。認知度が上がり、客足も戻り始めた。遂には駅の反対口からも人がきてくれるようになり、土日では30人待ち、平日でも2~3人の待ちができるほどの人気店に成長した。
「まだ100点の味は出せていないです。やりたいことはたくさんあります。答えがないことがラーメン作りの魅力でもあるし、苦しさでもありますね。まだまだ美味しくしていきます」(櫻井さん)
「Free Birds」の宮本さんは、櫻井さんの腕を高く評価する。
「オープンした時期も近く、淡麗系のラーメンを出されていて、ずっと気になる存在でした。スープはマイルドで醤油の香りと自家製麺の手もみのバランスが素晴らしい。一杯の丼から研究熱心なことがビシビシ伝わってくるんです。こういった若い方がラーメン界をどんどん伸ばしてくれると思います。次世代を担うラーメン職人になってもらいたいですね」(宮本さん)
櫻井さんも「Free Birds」のラーメンのファンだ。
「とにかく完成されていて、ラーメンを知り尽くした人が作っている一杯だなと感じます。駅から離れたあの場所で勝負するのもすごい。店全体が宮本さんの趣味の空間で、そこで誰もが美味しく食べられるラーメンを提供している。理想の店だと思います」(櫻井さん)
オープンが近いことで意識し合った両店だが、地元に根差した店作りをしているところも共通している。店自体が街になくてはならない存在になれば、その街の活性化にも繋がる。歴史を辿れば、ラーメン屋とはそういうものだったのだろう。(ラーメンライター・井手隊長)
○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて19年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。Twitterは@idetaicho
※AERAオンライン限定記事