日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介する本連載。名店を渡り歩いて動物+魚介のラーメンに辿り着いた中野の人気店の店主が愛する一杯は、子どものために作ったラーメンで町田エリアを牽引する店主の紡ぐ本気のラーメンだった。
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■引き算の考え方で生まれた“無化調ラーメン”
中野駅の北口から10分。中野通り沿いにある「麺屋 はし本」は2017年2月オープンと比較的新しい店ながら、中野を代表する人気店だ。魚介の旨味溢れるスープに濃厚な動物系で厚みをつけた一杯で、複合的な美味しさを放つ。
店主・橋本健太朗さん(44)は「すみれ」「山頭火」「青葉」「東池袋大勝軒」と名店を渡り歩いてきた。様々なラーメン作りを覚えた後、自分が毎日食べたいと思う、動物+魚介のラーメンで勝負することを決意。一時は一世を風靡した動物+魚介ラーメンだったが、橋本さんが独立したのはブームが過ぎたあと。だが、かつて「これぞ毎日食べたい一杯だ」と感銘を受けた中野の「中華そば 青葉」、渋谷の「らーめん はやし」の存在に背中を押され、流行とは違うベクトルのラーメンで勝負することにした。
1日60~70杯ペースというそこそこの滑り出しだったが、少しずつ口コミが広がっていく。業界最高権威とも言われる講談社の情報誌「TRYラーメン大賞」では新人賞のMIX(動物系白湯)部門で満場一致の1位に輝いた。
1位を獲っても、橋本さんは慢心することなくラーメンを改良し続けた。そこでたどり着いたのが、化学調味料を使わない“無化調ラーメン“だった。
化学調味料を使わずに爆発的な旨味を生むにはどうすればいいのか。尊敬する「はやし」の店主・林真剛さん(58)にもアドバイスをもらいながら、開店から1年後、ついに無化調ラーメンが完成した。
「化学調味料を使わないというのは想像以上に大変なことでした。これまでは食材を重ねることで旨味を強めてきましたが、無化調は足し算より引き算の考え方。食材を絞って旨味を活かす考え方は、今までの自分にはありませんでした」(橋本さん)
自然の食材だけを使い、職人の腕で美味しくする。橋本さんにとって、日々食材と向き合えることが職人としての醍醐味だという。ここ1年で味はさらに安定し、リピート率も格段に上がってきた。目指す形は「普段使いの店」。今後も街の人たちとともに、細く長くお店を成長させていきたいと考えている。
そんな橋本さんの愛するラーメンは、無化調ラーメンのもう一人の立役者が紡ぐ、“子供達のため”の一杯だった。