なかにはすべて食べ尽くされた後に走ってきて、
「うわああ、おおおお」
と身悶えして悔やんでいる人もいた。
見知らぬ人が作ったものはいやなどという男子学生は1人もおらず、みんなとても喜んで食べてくれた。今はそんなに腹をすかせている男子学生もいないだろうし、他人が作った何十個ものおにぎりを前にして、食べろといわれても困惑するだけなのだろう。それだけ食べ物に対して、執着がなくなってきたのだ。
また、夫に先立たれたQさんの社会人の息子には彼女がいる。これまでも彼は交際している彼女についてはオープンにしていて、高校生、大学生のときの交際相手についても、Qさんは報告を受けていたし、交際している彼女を家に連れてきたこともあった。一人息子なので、Qさんとしては若い女の子と話すのを楽しみにしていたのだが、これまでの彼女は、
「お母さんと何度も会うのはちょっと……」
と尻込みしていたらしい。
ところが息子と同い年の現在の彼女は、積極的に家に遊びに来たがり、そして、
「お母さん、お母さん」
としきりに懐いてくる。最初はQさんもうれしかったのだが、だんだん押しの強い彼女に、疑問を持つようになった。高校生、大学生のときはまだ結婚などは考えていないだろうが、20代後半になると、彼女としてはそういう気持ちにもなるだろう。しかし息子に聞いてみると、「今のところ結婚する気はない」という。心配になって、
「でも彼女はそういうつもりなんじゃないのかしら。ちょっとあせっているような気もするけれど」
と本音を話した。
「うーん、でも生活を一緒にするタイプじゃないんだよね」
という。Qさんはこれはへたをすると彼女から、息子に遊ばれたと誤解を受けると困るので、
「そのへんはきちんとしないと。彼女とよく話し合ったほうがいいわよ」
とアドバイスをしても、
「でも、結婚する気はないし」
という。Qさんとしては、だから別れろともいえず、ただこのまま結婚する気がないのに、彼女と交際を続けていいものかと、母親として悩んでいた。