とにかく焼きそば、御飯を入れる器、バナナを切るためのペティナイフと皿、フォークをトレイにのせて居間に運んだ。彼女と向かい合っている息子の顔をちらりと見たら、明らかにこわばっていた。

「どうぞ、お食べになってください。結構、よく出来たと思います」

 彼女は熱心に薦めてくる。Qさんは、

(『召し上がって』だね)

 と彼女の言葉をチェックしながら、まず目の前のソース焼きそばを皿にのせ、いただきますといって食べた。

「どうですか?」

 目を輝かせて聞いた彼女にQさんは、

「ちょうどいい味つけになっているわ」

 というしかなかった。

「そうですか、よかった」

 これは明らかにごく普通に売られている、生麺のソース焼きそばを作ったもので、彼女なりの工夫があるわけでもない。次の御飯にしても、ただ普通に炊いてあるだけなので、感想のいいようがない。それでもQさんは彼女を傷つけてはいけないと、

「最近はたくさんのお米のブランドがあるみたいね。このお米のブランドは何?」

 と聞いてみたが、

「さあ、わかりません」

 と彼女が首を傾げたので、会話はそれで途切れた。息子は黙って頷きながら、ほとんど具のない焼きそばを食べている。

「そばめしっていうのもあるわよね」

 またまたQさんが気を遣って話しかけると、彼女は、

「そうなんです。でもお持ちするのに、一緒に炒めるのはいけないかなって思って、別々にしました」

 という。

(いっそ、そばめしにしてくれたほうが、食べやすかったんだけど)

 彼女にはいえない言葉をQさんは腹の中におさめつつ、ソース焼きそばをおかずに御飯を食べた。

「バナナはこのままでいいですよね」

 彼女がそういうので、3人で運動会でのおやつのように、バナナの皮をむいて食べた。彼女のQさんへの母の日のお祝いは、それで終わった。

 彼女が帰った後、Qさんと息子は、

「あれは何だ」

 とあっけに取られていた。御飯のおかずとしてソース焼きそばがあり、デザートとしてバナナを入れたと、彼女の意図はわかった。「焼きそばもカップ麺じゃないし、御飯もレンチン御飯じゃないから、とても手をかけたと自分では思ってるんだよ」

 息子はため息をついていた。

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