あるとき息子が、彼女が母の日をお祝いしたいので家に来るといっているといわれた。
「彼女のお母さんもいらっしゃるの」
「ううん、1人だよ」
「でも、あちらにもお母さんがいるのに、どうしてうちに来るのかしら。そういってくれるのはうれしいけど」
Qさんがとまどっていると、彼女がやってきた。手には大きな紙袋をぶら下げている。
「わざわざありがとう。お母様はどうなさっているの?」
Qさんが声をかけると、
「ああ、うちの母には適当にやっておきましたから、いいんです」
とにっこり笑っている。
(適当にやっといたって、どうしたの? 大丈夫なのかしら)
Qさんは心配になったが、口には出さず彼女を居間に招き入れた。
するとソファに座った彼女は、
「がんばって作ってきました」
と大きな紙袋の中から、20センチ角ほどの三段重を取り出して、目の前のローテーブルの上に置いた。Qさんと息子が見ていると、彼女は一の重と二の重を持ち上げて、三の重を2人に見せた。いったい何が入っているのかと前のめりになっていた2人の目の前に登場したのは、ぎっちぎちに詰められたソース焼きそばだった。それも具はキャベツのみ。
「こ、これは……」
Qさんがつぶやくと、彼女はそれには答えず、
「はい、これは二段目でーす」
と二の重をソース焼きそばが詰まった三の重の隣に置いた。入っていたのは白い御飯だった。何も炊き込んでいる形跡はなく、ただの御飯。Qさんと息子がびっくりしていると、
「はい、最後に一段目でーす」
と蓋を開けた一の重に入っていたのは、3本の皮付きバナナだった。
Qさんと息子がびっくりしていると、彼女はにこにこ笑いながら、
「お母さま、お箸とお皿はどこにありますか」
とダイニングキッチンに行こうとするので、あわてて、
「ああ、私がやるから大丈夫、あなたは座っていて。今、持ってくるから待っててね」
と止めて、急いで食器棚に歩いていった。(いったいあれをどうやって食べればいいの。御飯に焼きそばなんてどうするの。おまけにあの丸のままのバナナって何?)