イラスト:オカヤイヅミ
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 知り合いの女性から聞いた話だが、彼女のカットを担当している、ヘアサロンの20代後半の男性が、母親ではない人が作った、ラップを使わないおにぎりや手料理は、できれば食べたくないといったという。彼の同僚の同年輩の男性3人も、同じような意見だったとか。付き合っている彼女に対しては大丈夫かと思いきや、実母以外の人と同じ扱いなのだそうだ。その理由は「汚い」「うちの匂いと違う」だそうで、彼らは特にマザコンでもないらしいが、

「世の中、本当に変わったなあ」

 と驚いてしまった。

 交際中の彼女が作った、ラップ不使用のおにぎりは食べたくないとなると、彼らは結婚して妻が作った料理を、いったいどんな気持ちで食べるのだろうかと不思議な気持ちになった。選択肢としては、「妻なので気にしない」「我慢して食べる」「調理の際、ラップやゴム手袋を使うようにいう」「妻には作らせずに自分で作る」「家では食べない」のどれかになるかと思うが、家での食事に選択肢があること自体おかしい。妻の作ってくれたものは、腐っていない限り、何でも食べるのが夫だろうがと思う。口に合わなかったらお互いに意見を出し合って調整していく。もちろん夫が作って妻が食べてもである。

 私が若い頃の高校、大学での同年輩の男の子たちは、だいたい昼食を食べた2時間後には腹をすかせていた。食欲旺盛なので、菓子パンの2、3個では空腹感が満たされず、アルバイトをして懐が潤っているときは、ラーメン&ライス、どちらも大盛り、そして餃子をおやつのように食べていたが、懐が寂しいときは、

「腹減った……」

 とつぶやいてとても悲しそうだった。好き嫌いなどいわず、それはちょっとあぶないかもと私たちが注意しても、平気、平気といいながら、ぱくぱくと食べていた。コンビニなどはなかったし、定食屋で食べるにはお金がない。そういう同じゼミの懐が寂しい男子学生のために、女子学生が自分で作ってきたり、家で母親に作ってもらったりして、

「よかったら食べて」

 とおにぎりをたくさん作って持っていった。私も母に、中に鮭やおかかや昆布の佃煮が入り海苔で巻いた、ごくごくふつうのおにぎりを10個ほど作ってもらって持っていった。集まった50個ほどのおにぎりを目にしたとたん、彼らの顔はぱっと明るくなり、

「ありがとう、ありがとう」

 と何度も礼をいいながら食べていた。どこから無料おにぎりの話を聞きつけてきたのか知らないが、

「あんた、誰」

 といいたくなる見慣れない顔もいた。彼も、「うまい」を連発して喜んで帰っていった。

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