日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介する本連載。「麺」を追求し続けて“打ちたて麺”に辿り着いた名店店主の愛する一杯は、「給料は要りませんから働かせてください」と飛び込んできた骨のある弟子が紡ぐ一杯だった。
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■目指すのは「普通の醤油ラーメン」
中央区八丁堀にある「麺や 七彩」は喜多方ラーメンを提供する人気店だ。注文を受けてから麺を打つ“打ちたて麺”が特徴で、自分のために目の前で粉をこねて麺を打ってくれるというのは特別感があり、待つ間のワクワク感もひとしおだ。
通常の麺は寝かせて熟成させることでグルテンが生成され、コシが生まれる。このコシが麺の旨さと存在感を決めると言われているが、「七彩」の麺は逆をついている。そば打ちの技法を応用し、小麦粉をこねて麺棒で伸ばし、切って茹でた麺は、“無割そば”(そば粉0:小麦粉10)とも言える。
グルテンが少ない麺は茹でている間にブチブチと切れやすい。「七彩」では茹で時間を3分と決めて、湯の中での麺の泳がせ方や湯切りにもこだわっている。打ちたてならではの小麦の香りと、手打ち麺の独特な食感が楽しめ、他ではなかなか食べられない一杯だ。
店主の阪田博昭さん(48)は16歳で飲食の世界に入って以来、一貫して「100年後にも残る一杯」を目指してきた。2015年に東京駅の「東京ラーメンストリート」での出店契約を終え、八丁堀に移転する際に完成した“打ちたて麺”は、料理人人生30年間の集大成ともいえる。
長く人びとに愛されるには、奇をてらったものではなく、普通が一番だと阪田さんは考えている。この打ちたて麺を使った喜多方ラーメンはまさに余計なものを削ぎ落とし、「普通」に美味しい醤油ラーメンの頂点を目指して作ったものである。その美味しさは「究極」ではないかもしれない。だが、誰もが“美味しいラーメン”だと感じられる一杯を意識している。阪田さんは言う。
「7割の人にとって美味しいのではダメなんです。食べた人全員に美味しいと言わせるラーメンは作れるはずだと思って、日々精進しています」
美味しさの構造や食材の能書きは語らない。「また食べたくなる一杯」かどうかがすべてだと阪田さんは考えている。そんな阪田さんの愛する一杯は、脱サラして、「七彩」に飛び込んできた愛弟子が作るラーメンだ。
■「給料はいりませんから、働かせてください」