「特製醤油 大盛」。ボリュームがあるラーメンは単身者にも好評だ(筆者撮影)
「特製醤油 大盛」。ボリュームがあるラーメンは単身者にも好評だ(筆者撮影)

 東小金井を代表するお店に成長した「くじら食堂」の転機となったのは、駅ビル「nonowa東小金井」からの出店の誘いだった。5年の店舗契約が終了する寸前に舞い込んできた話で、迷いはあったが、他に場所も見つからない。駅ビルの好立地とはいえ、この頃の「くじら食堂」は月700万円ほどの売り上げで、駅ビルでは750万円が損益分岐点になる。だが、覚悟を決め、18年9月、「くじら食堂」はnonowa東小金井に移転した。

 移転したからには結果を出さなければいけないと、内装をさらに明るく楽しい雰囲気に変えて、元気の出る店を目指した。駅ビルに訪れた若いお客さんや家族連れが一気に増え、新規顧客も獲得。一方で、無料で大盛や特盛にできるようにし、移転前の常連客にも配慮した。ゲリラ的にスタートする限定ラーメンも人気のままだ。

「七彩」の阪田さんは、下村さんのまっすぐな人柄を高く評価している。

「家族のためにも、ラーメン屋で成功しなければいけないという強い思いを感じました。お金じゃない何かを目的にしている人間は、何事も失敗しないと思うんです。常連さんの顔を覚えるのも早く、後輩の面倒見もいい。器用ではないけれど、志があって、骨のある人間だと思います。七彩の出身らしく、美味しい麺を出していますよ」(阪田さん)

 下村さんも師匠である阪田さんの人間性に惚れ込む。

「ラーメン以前に阪田さんが好きなんですよね。おおらかで変わった感性を持っていて、とても魅力的な人です。3年間修行させてもらいましたが、『七彩』のラーメンは毎日食べても全く飽きなかった。自分もそういうラーメンを目指しています」(下村さん)

 師匠から弟子へ、十分すぎるほど繋がっているバトン。「くじら食堂」の麺を一口啜るだけで、「七彩」へのリスペクトが滲み出てくる。ラーメン界は時代を追うごとにますます元気になっていくのだ。(ラーメンライター・井手隊長)

○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて18年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。Twitterは@idetaicho

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