激務でも入社時から「志は決まっている」と話す柳沢英太(photo 写真映像部・加藤夏子)
激務でも入社時から「志は決まっている」と話す柳沢英太(photo 写真映像部・加藤夏子)
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 ソニーグループが営業利益1兆2023億円(2022年3月期決算)をたたき出した。営業利益1兆円超えは国内製造業ではトヨタ自動車に次ぐ2社目だ。家電の不振から復活した原動力は、そこで働く「ソニーな人たち」だ。

【写真】10円玉と比べると…目下、期待を集めているイメージセンサーがこちら

 短期集中連載の第7回は、ソニーセミコンダクタソリューションズのシステムソリューション事業部長の柳沢英太さん(42)。かつて「お荷物」とされた半導体事業の躍進を支えたのは、鉄人と呼ばれる働きぶりだった。AERA 2023年1月16日号の記事を紹介する。(前後編の前編)

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 ソニーのイメージング&センシング・ソリューション事業(半導体)が好調だ。グループの利益の2割近くを占める稼ぎ頭であるばかりか、ソニーのテクノロジーを支える核心的な存在である。

 神奈川県厚木市に本拠を構える半導体の組織は、かつて売却が検討されるほどのお荷物集団だった。以下、ソニーの半導体の躍進を縁の下から支えてきた、知られざる営業マン、ソニーの“鉄人”の物語である──。

 その男とは、ソニーセミコンダクタソリューションズのシステムソリューション事業部長を務める柳沢英太(42)だ。経営工学を専攻した院卒で、2005年にソニーに入社した。最初に配属されたのは半導体事業の企画管理だった。

 転機が訪れたのは、入社4年目の08年。ある朝、当時の半導体事業のトップで、後日『ソニー半導体の奇跡』(東洋経済新報社)を著した斎藤端に呼び出され、いきなり、こういわれた。

「アメリカにいってくれ。片道切符だ」

 柳沢は、「意味がわからなかった」と振り返る。思わず「どうしてですか」と問い返した。

「これからのソニーが生き残るためには、現場を知っている人間が育つ必要がある」と、斎藤はいった。

■斬り込み隊長に指名

 斎藤は、半導体の逆転劇の目玉として、モバイル向けイメージセンサー(撮像素子)の市場拡大を考えていた。その“斬り込み隊長”として柳沢を指名したのだ。

「これまでいた管理部門ではなくて、セールス&マーケティングのポジションでいってこい。それも、米国市場が立ち上がるまで帰ってくるな、ということだったんですね」

 と、柳沢はいう。“できる”と見込んだ社員には、思い切り厳しいミッションを託す。それが、ソニーの法則である。09年、米国に赴任した。28歳だった。

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