「具だくさんの味噌汁はだめ?」
と聞いても、
「熱いものはいやです」
と顔をしかめるので、
「熱くなくていいから、ぬるい味噌汁はどうでしょうね」
と提案してみた。すると、
「ぬるい味噌汁はおいしくない」
などという。聞いてきたからこちらは考えて答えているのに、素直に聞くわけではなく、ああいえばこういう、こういえばああいうで、私は、
「結局、あなたはそうめんと、アイスクリームを永遠に食べたいんでしょう」
といいたいのをぐっとこらえ、
「ふーん、あなたに食べたい気持ちがないんだったら仕方がないわね」
というしかなかった。体を治したいといいながら、実際はそういう気がない。我慢はしたくないのだ。残念ながら中年以降は、何でも好きなものをばくばく飲んだり食べたりして、それで健康でいられるわけがないのである。
漢方薬局の先生に、
「夏バテ予防の食事って何かあるんですか」 と聞いたら、ある日、薬膳の先生にたまたま会ったので、話を聞いてきたと教えてくれた。その薬膳の先生がいうには、彼女は夏場に料理をするとき、すべてに水がわりに生薬をほとんど薬の味がしないほど、うすーく煮出した液を使っているのだそうだ。その漢方薬は「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)」で、中には人参(にんじん)、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)、地黄(じおう)、当帰(とうき)、川(せん)きゅう(※「きゅう」は草冠に弓)、芍薬(しゃくやく)、黄耆(おうぎ)、桂皮(けいひ)が入っている。台湾ではこの十全大補湯をベースにしたスープをよく飲んでいるらしい。私は台湾に行った経験もあり、もしかしたら飲んだかもしれないが、この生薬をベースにしたスープは飲んだ記憶はなかった。この生薬の煎じ液を、スープの素、御飯を炊くときの水、食材をゆでるとき、和え物を作る際、調味料をのばすときにも使う。
漢方薬局の先生の流派では、この漢方薬は使わないので、薬局には常備しておらず、なので患者に出した経験はない。この話を聞いて先生が別のルートで入手した生薬を見せてもらった。そして料理に使うためにうすーく煎じた液を見せてもらった。ペットボトルにそれを入れて冷蔵庫で保存する。保存するといっても、家族がいると2リットルのペットボトルは1日で使い切ってしまうので、毎日、液は作ることになる。料理に使うよりもやや濃い目に煮出した液を飲ませてもらったが、最初は甘い味がするものの、後口に酸味や苦味もある複雑な感じの味だった。はっきりいっておいしいものではなかった。