日本に数多あるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。名店店主といえど、影響を受けた店はあるはず――。1月20日に配信した「天才ラーメン職人のお勧めは元ギタリストが町田のはずれに出店した行列ができる店」は非常に大きな反響があった。その元ギタリストが愛するのは、下町にある鶏を極めたミシュランもお墨付きのラーメン店だった。
2007年にオープンした「町田汁場 しおらーめん進化」の店主は元ギタリストの関口信太郎さん(38)。店名の通り、塩ラーメンを看板に掲げるお店で、「TRYラーメン大賞」の塩部門でも1位に選ばれたことのある名店だ。関口さんは食べ歩きをしていた頃から塩ラーメンに魅せられ、徹底的に塩にこだわってきた職人だ。
高校時代からロックバンドでギターを弾いていた関口さん。音楽で食べていきたいとライブ活動に明け暮れていたが、22歳の頃にバンドが解散。アルバイトで続けていたラーメンの道に入ることになる。
大好きな塩ラーメンでいつか独立したいという思いで、駒沢「せたが屋」の門を叩く。3年で独立するという前提で店主・前島司さんのもとで修業を始め、新ブランドや新店の立ち上げといった大役に次々と抜擢。店のエースとして成長していった。前島さんは当時の関口さんのことをこう語る。
「ラーメンに対して貪欲で、好奇心が強く、試作を繰り返しながらセンスを磨いていく。もともとクリエイター肌なんでしょうね。好きなことをとことん突き詰めて、成功する人だと思います」
3年間の修業を経て、07年に26歳で独立。塩ラーメン専門のお店として進化をオープンする。場所は高校の頃から住んでいた町田。すでに「胡心房」「69’N’ROLL ONE」「一番いちばん」などの名店はあったが、ラーメンの街としてさらに盛り上げたいという思いがあった。
東京でラーメンというと、どうしても醤油ラーメンが優勢だ。醤油の歴史が長く、何より“塩だけ”で成功しているお店は少ない。味のはっきりした醤油や味噌と違い、単体だとしょっぱいだけで味を引っ張ることができない。ダシのブレも出やすくなるため、味を安定させていくのも至難の業と言われている。塩ラーメンを作るのは、そのくらい難しい。それでも、関口さんはとにかく塩を追求する。ラーメンを飛び越え、料理業界に塩の魅力を伝えたいとソルトコーディネーターの資格も取得した。
なぜここまで塩にハマれるのか。
「同じことをやり続けるのは飽きてしまいます。突き詰めることでラーメン作りが楽しめる。流れ作業になった瞬間に成長が止まってしまうと思うんです」(関口さん)
醤油に比べて軽視されがちな塩を広めることで、ラーメン業界全体で味の底上げができると考えている。
塩ラーメン専門の「進化」だが、実は一つだけ醤油のメニューがある。「白醤油らーめん」(850円)だ。