大豆ではなく小麦を使った醤油は琥珀色をしていて「白醤油」と呼ばれている。愛知県産七福醸造の白醤油に本みりんを加え、鯖節などを合わせて完成させた白醤油ダレはとてもまろやかで香りが高い。この一杯のために打った全粒粉入りの麺を合わせていて、一口啜れば白醤油の香りとともに小麦の香りが鼻に抜ける。
なぜここに来て醤油? と筆者も疑問だったが、白醤油は名前こそ「醤油」だが、食べるとむしろ塩ダレに近いのではと思えてくる。つまり、醤油を塩に見立てたような一杯なのだ。
「研究に終わりはありません。死ぬまでに満足できればいいかな、ぐらいに思っています。これからもどんどん旨くなっていきますよ」(関口さん)
そんな関口さんが愛する一杯は、おばあちゃんの“インスタントラーメン”に魅せられた店主が作る極上の醤油ラーメンだった。
■ミシュランに認められていても味を変える 憧れのラーメンへの思いが溢れる名店
13年にオープンした「ラーメン屋 トイ・ボックス」(荒川区)は店主・山上貴典さん(44)の作る鶏と水だけを使ったラーメンが人気のお店だ。開店翌年から早くもミシュランガイド東京のビブグルマンに選ばれ、その後も5年連続受賞し続けているスランプのないお店と言える。
ラーメンとの出会いはなんと3歳。初めて食べたのはおばあちゃんの作ってくれた「サッポロ一番 みそラーメン」だった。インスタントラーメンだが、その味に子どもながらに衝撃を受け、すっかりラーメンにハマってしまったという。
当時横浜に住んでいた山上家。給料日は外食するのがお決まりで、父親から「焼肉行くか?」「ハンバーグ行くか?」と聞かれても、返す言葉は決まって「ラーメンが食べたい」。これが幼い頃の山上さんだった。
高校時代、知人に板橋区の「下頭橋ラーメン」に連れて行ってもらったことで、東京・環状七号線沿いにひしめいたことで話題を呼んでいた“環七ラーメン”に出会う。豚骨醤油スープの上に丼からはみ出るまで背脂を振りかける“背脂チャッチャ系ラーメン”に魅せられてしまったことから、山上さんのラーメン食べ歩きがスタートする。背脂系のほか、横浜家系ラーメンにもハマり、21歳で「ラーメン二郎」に出会い、こってりラーメン好きに拍車がかかっていく。
営業マンとして働きながら、「食べ歩きの趣味」としてラーメンを楽しんでいた山上さん。だが、これが本当にやりたい仕事なのか――自問自答の日々が続いていた。そんなある日、ラーメン好きが集まるオフ会に参加することになった。そこで出会ったのが、町田の名店「ラァメン家 69’N’ROLL ONE」の店主・嶋崎順一さんだ。同店の鶏と水だけで作った醤油ラーメン「2号ラーメン」(800円)に衝撃を受けていた山上さんは、その感動や思いを嶋崎さんに熱く語った。
それが伝わったのか、店を手伝わせてもらえることになる。07年1月、32歳のときだった。