創業前から構想していた未上場株投資のコンセプトを絵に。感性に訴えるコミュニケーションを大切にしてきた(撮影:松永卓也)
この記事の写真をすべて見る

 レオス・キャピタルワークス代表取締役社長、藤野英人。2月にフジ・メディア・ホールディングスの大株主となり、大きな注目を集めているレオス・キャピタルワークス。その創業者であり社長が藤野英人だ。藤野は数字よりも、社会をどうしたいかをずっと追ってきた。リーマンショックでは、1株1円で会社を売却。そこから再び立ち上がり、プロセスを大事に、うるおいのある世界を目指す。

【写真】この記事の写真をもっと見る

フォトギャラリーで全ての写真を見る

*  *  *

「土の香りがする投資家」──。ある人は、そんな表現で彼を語った。

 資産運用会社レオス・キャピタルワークスの社長兼シニア・ファンドマネジャーとして、投資の最前線に立つ藤野英人(ふじのひでと・58)。創業以来22年、一貫して長期積み立て投資の有用性を前面に打ち出し、現役世代の個人投資家の支持を集めてきた。

 現在の総運用額は1兆円を超え、2月には経営危機に揺れ動くフジ・メディア・ホールディングスの大株主になったことでも注目を集めた。12年前に出版した『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)は32刷11万部のベストセラーに。近年は、将棋の叡王戦の特別協賛企業となり、またYouTubeの自社チャンネルでの発信も強化するなど存在感を強めている。

「投資家」に対して、株価を追いかけ売却益を貪欲に求めるギラギラとしたイメージがあるとしたら、会った瞬間に裏切られるだろう。藤野は自分を語るとき、数字の話はほとんどしない。「最近、こんな面白い人がいて」「不思議な出来事があったんですよ」と情味たっぷりにエピソードを語る。本人によればそれは「正統な専門教育を受けた“純正の投資家”ではないから」だという。

 生まれは富山のサラリーマン家庭。厳格で教育熱心な父と下着販売員として働く母のもとに育った。小学校を卒業するまでに国内外の文学全集を数度完読し、文章を書くのも好きだったことから小説家や編集者に憧れたが、成績優秀だった藤野少年に親族は別の期待を寄せた。「満州の高等裁判官だった祖父の才を継いで、法曹界に進みなさい」と言い聞かされ、早稲田大学法学部へ。卒業後は、司法試験に合格するまでの“つなぎ”として野村投資顧問に入社。時代はバブル期で「効率的に稼げる業界」という認識で入ったに過ぎなかったが、ここでの出会いが藤野の人生をガラリと変えた。

叡王戦に特別協賛をする縁で、将棋会館で収録が行われたYouTubeチャンネル「お金のまなびば!」。写真右が叡王の伊藤匠。中央はレオスのコミュニケーション・センター部長の水野宏樹(撮影:松永卓也)

日本の将来を明るくする 理想的な投資信託をつくる

 配属された日本中小型株運用部門で、先輩に並んで商談の席に座った藤野に衝撃を与えたのは、ベンチャー経営者たちであった。「スタートアップ」や「IT」といったスマートな表現はまだなかった頃の「地方の零細企業の社長」というほうが正しい。水道の栓やペットボトルのラベルなど、それまで気にも留めなかった製品について「うちの技術がどれほど素晴らしく、世の中を変える力があるか」と口角泡を飛ばして熱く語る姿にはじめは戸惑い、しかし徐々に引き込まれていった。

次のページ 投資とは「未来を信じる力」