平均視聴率のワースト記録更新は様々な理由が重なったにせよ、日本に混乱を招いた2つの大震災と感染症の拡大をテーマにしたことを、木俣さんは「評価」する。
「やりようによっては、非常に骨太なテーマの物語が『おむすび』でできたと思うのです。名作『おしん』は第一次世界大戦、関東大震災から太平洋戦争まで描いています。『おむすび』はごく一般的な家庭のなにげない日常も盛り込んでいるため、それと災害に翻弄された30年という題材の食い合わせがよくなかったように思います。ただ、難しいことに挑んだことは評価したいです」
「ある種チャレンジング」
NHKメディア総局長の山名啓雄氏は3月19日の定例会見で、「おむすび」の低視聴率について、「僕らにしてみるとつい最近の時代、若い方にしてみると近い時代を描いていた。震災などを描くことは、ある種チャレンジングであったのかなとは思っている」と総括している。
チャレンジなくして、新作も名作も生まれない。木俣さんも、おむすびはチャレンジした作品だったとして、こうまとめる。
「ギャルと栄養士、災害と日常、組み合わせるのが難しい要素を果敢に組み合わせたチャレンジが、視聴者には受け入れにくかったのではないかと思います。私は著書で『朝ドラは歌舞伎のような伝統芸能』と定義しています。歌舞伎も古典と新作をやっていて、新たな題材や表現を模索し、伝統芸能にリスペクトしながらアニメや漫画を歌舞伎化した新作に挑んでいます。
『おむすび』は新しさを果敢に模索するあまり、脚本に日本人の心を託してきた歴代作家の想いへのリスペクトが、やや後回しになっていたようにも感じています。NHKの夜ドラのような実験的な枠でやったら評価された題材だったのではないでしょうか。それに、とても楽しんでいるかたもいたので、新たな朝ドラの可能性を開いたとも言えるでしょう」
3月31日から始まる、112作目となる朝ドラ「あんぱん」は、「アンパンマン」を生み出した漫画家・やなせたかしさんと妻の小松暢さん夫妻を、俳優の北村匠海と今田美桜が演じる。
新たな名作となるかどうか、楽しみだ。
(AERA dot.編集部・太田裕子)

