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書家、根本知。NHK大河ドラマ「光る君へ」の題字を覚えている人も多いだろう。題字に加え、俳優たちへ書道指導をしたのが根本知だった。根本は、「仮名」を小筆で流れるように書く仮名書家。書道と言えば大きな筆で書く印象も強く、仮名書道は認知度がまだ低い。30歳で“本流”からはずれた。そこから得た知見で、書家としての深みが増した。日本の伝統文化に愚直に向き合う。
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2024年10月、東京都中央区の日本橋三越本店美術画廊で開催された「和歌でたどる源氏物語 根本知書展」を訪ねた。紫式部の詠んだ和歌を流麗な仮名で散らし書きにし、現代の暮らしにも馴染(なじ)む額や掛け軸に仕立てた作品が並ぶ。多くの客が詰めかけた会場には和服姿の女性が目立ち、根本知(ねもとさとし・40)の人気をうかがわせた。
根本は昨年大きな話題を呼んだNHK大河ドラマ「光る君へ」で題字の揮毫(きごう)や俳優への書道指導を担当した。主演の紫式部を演じる吉高由里子や藤原道長を演じる柄本佑らが自ら筆をとって文字を書く場面では、彼らの努力と共に、根本の指導の確かさにも注目が集まった。
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「吉高さんの場合はお稽古に半年かけました。彼女に筆を持ってもらえるか、プロデューサーから『それはあなたの指導次第です』と言われて。場面によっては絶対本人に書いてもらいたいというところがありますから」
紫式部が書きためた「源氏物語」の草稿や、名筆で知られる藤原行成の書は根本自身が書いている。漢字と日本生まれの仮名が調和しつつ縦に流れていく書は、国風文化が花ひらいた平安時代の象徴である。最も視聴者が馴染んだのは題字の「光る君へ」だろう。最初は書道指導だけを依頼されていたが、途中から題字揮毫も託された。
「えー、書きづらいな!と思いました。長い間仮名を学んできた僕にとって、漢字と仮名交じりを横書きで、しかも『る』と『へ』なんて、一番格好のつけにくい字なんです」