本連載の書籍化第5弾!『鴻上尚史のおっとどっこいほがらか人生相談』(朝日新聞出版)

【鴻上さんの答え】

 さおりさん。大変ですね。以前、ネットで「日本には人種差別はない」なんてことを大真面目に書いている人達がいて、驚いたことがあります。

 当事者にならないと見えてこないことはもちろんありますが、あまりにも想像力が貧困だと感じました。

 さおりさん。「私の正義を貫きたいというただのエゴではないかと自問してしまい」と書かれていますが、エゴではないと思いますよ。

 だって、エゴとは、自分のためにやることでしょう?でも、さおりさんは、娘さんのためにやられているわけですよね。自己満足が目的なのではなく、娘さんの幸せが目的でしょ。ですから、エゴではないと思います。

「私の正義」と書かれていますが、さおりさんの行動は、「私の」という個人的なことではなく、人類が目指す「正義」だと僕は思います。

 アメリカ人の友人達から賞賛されるけれど、日本人の友人からは「言ってることは正しいけどやりすぎたのでは」と言われたというのは、じつに、日本の状況を現しますね。

 さおりさん。

 娘さんの前で、一度、中学生ぐらいの男子グループを「追いかけてその子達を叱り謝らせた事」があったんですね。娘さんは、「怖がって、それがトラウマになっている節」があるんですね。

 その時、さおりさんは、どんなふうに追いかけましたか。そして、どんなふうに、その男子中学生に声をかけ、叱り、謝らせましたか。

 僕は、その「追いかけ方」「声のかけ方」「叱り方」「謝らせ方」が、とても重要だと思っています。

 本当はね、人間に向って「うんこ」なんて笑いながら吐き捨てる奴になんか、「おい、ちょっと待て!今なんつった!?ふざけんなよ!それでも人間か!謝れ!」とダッシュして追いかけて、怒鳴って当然だと思います。

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