野球カードにつられて オーディションに参加
34歳にして芸歴は24年。映画「ラスト サムライ」の子役でスクリーンデビュー。トム・クルーズをはじめ、渡辺謙、真田広之らと共演した少年・池松の存在感はいま見返しても鮮烈だ。
筆者がその名を認識したのは2014年、石井が監督した「ぼくたちの家族」。ある日突然余命宣告をされた母を取り巻く家族の物語で、生真面目な兄(妻夫木聡)と正反対にひょうひょうとしながらも母のために奔走する弟を演じ、その後も「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」など石井作品に多く出演している。18年、監督・塚本晋也の初の時代劇「斬、」では人を斬れない浪人の葛藤と刹那を画面に刻みつけ、第75回ヴェネチア国際映画祭で高く評価された。その活躍ぶりは常に日本映画界の視線を浴びてきた。
そして今年は間違いなく「池松時代」の幕開けとなった。第77回カンヌ国際映画祭に出品された「ぼくのお日さま」(監督・奥山大史)を皮切りに、殺し屋女子コンビのゆるい日常とアクションが人気のシリーズ「ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ」(監督・阪元裕吾)で最強の殺し屋に扮(ふん)し、いずれも興行は好調。7月から放送されたフジテレビのドラマ「海のはじまり」で10年ぶりにゴールデンタイムのドラマに出演し、「池松壮亮」の名が一躍トレンド入りした。池松は笑って言う。
「父親からも『映画じゃないね、ドラマやね』って言われました。いろんな人から『観たよ』と連絡をもらうたびに、嬉しいのと同時に『あれ? いろいろやってきたんだけどな』ってちょっと悲しくなったりもして(笑)」
池松は1990年、福岡市に生まれた。父は建築業を主にした会社を経営し、母は専業主婦。三つ上の姉と、妹と弟がいる。父は保育園も運営しており、池松は常に子どもに囲まれた環境で育った。明るく活発な野球少年の人生が変わったのは10歳のとき。先に子役として活動していた姉と一緒に劇団四季のミュージカル「ライオンキング」のオーディションを受けたのだ。
「よくある話ですけど『野球カード買ってあげるから』と言われて、それにつられました。姉は歌や踊りが好きだったけど、自分は演技をやってみたいなんて一切思っていなかった」