2003年、子役でスクリーンデビューを果たした「ラスト サムライ」からずっと、池松壮亮は俳優として注目されてきた。どう演じるか。どう役と向き合うか。常にその問いを自身につきつけ、呼吸から体温まで操りながら演じようとする。11月8日には主演をつとめた映画「本心」が公開。26年の大河ドラマも決まった。俳優として、新たな挑戦が始まっていく。
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「今日で取材、終わりですか。お疲れさまでした。先日の舞台挨拶も(上映後のアフタートークまで)ずっといてくださいましたよね。ありがとうございます」
数時間にわたるインタビューと密着取材の終わりに池松壮亮(いけまつそうすけ・34)にそう言葉をかけられた瞬間、記者にあるまじき、とわかっていながらグッときてしまった。……え、舞台上から気づいてくれていたのか。うわあ、いい人だなあ!と。
凪(なぎ)のように穏やかで心地よい声は、取材でもスクリーンのなかと変わらない。メディア対応時の衣装は基本自前でスタイリストは付けず、ヘアメイクも最小限だと知って驚いた。2023年に独立しフリーランスになってからはマネージャーも付けず、自らスケジューリングをこなしている。この1カ月ほどは主演映画「本心」の公開を前にイベントに取材に忙しい日々を送っている。
映画「本心」は平野啓一郎の同名小説が原作だ。少し先の未来、亡くなった母親(田中裕子)の本心を知ろうと最新のAI技術を使ったVF(バーチャル・フィギュア)として母をよみがえらせる青年・朔也の物語。原作を読んだ池松が自ら企画を旧知の監督・石井裕也(41)に持ち込んだ。池松は言う。
「コロナ禍を経て時代が大きく変わっているいま、自分が漠然と持っている言葉にならない不安みたいなものが、すべて書かれている気がしたんです。AIはわかりやすい願望から使われるとよく言われます。実際に韓国や中国などでは2Dのバーチャル世界で故人をよみがえらせるサービスがすでに始まっている。生や死の概念も、愛も倫理も道徳もすべてが変わってくる。怖いですよね」
映画について現代社会について、自分の思いを自分の言葉で語る。半面、フッと力を抜いたユーモアや笑いを挟むことも忘れない。それになんといっても池松は「ずっと、うまい」俳優だった。