広島叡智学園中学校・高校(写真:編集部・井上有紀子)

 他にも広島県で注目されているのは、不登校の子どもの居場所作りだ。校内フリースクールとして各学校にスペシャルサポートルームをはじめ、東広島市内に「SCHOOL“S”(スクールエス)」という不登校の子どもが通える場所を作った。複数の学年の子どもが一緒に学び合う「イエナプラン教育」を実践する公立小学校の開校を支援。商業高校をはじめとした専門高校のアップデートとして、探究の授業を進化させた。草原教授は言う。

「一部の尖った学校だけでなく、普通科も変わっています。総合的な探究の時間のカリキュラム作りが県内各地で積極的に行われています。中山間地域の高校は総合学科、探究科を作って、地域と結びついた学びをしています」

 今でこそ華々しい改革を断行しているように見えるが、実は地道な取り組みの積み重ねの結果だった。草原教授は言う。

「広島で教育改革というと、つらい記憶をお持ちで嫌がる方もいらっしゃると思います」

国旗国歌で是正指導

 1997年、広島県内の教育は学習指導要領に則って行われていないと報道された。学校の式典で国旗掲揚、国歌斉唱しないことなども取り沙汰された。98年、県教委は文部省(当時)から是正指導を受けた。

「是正措置以降、基礎的な学力の向上、学習指導要領に準拠した教育を行って服務規律を正すことが優先されてきたのが2000年代の前半まででした」(草原教授)

 基礎的な学力を回復させるだけでなく、広島発の教育のイノベーションを提起したい。

「資質・能力を育み、子ども中心の学びを充実させる『学びの変革』が14年から推進されるようになりました。これは教師が主体性をもってカリキュラムを変革していく契機となりました」(同)

 広島の教育改革は10年前には始まっていた。当時、文科省から県教委に派遣されていた寺田拓真さん(福山市教委・学校教育部参与)は言う。

「学力調査の全国1位になることよりも、これからの時代は新しい価値を生み出せる人材の育成に力を入れるべきじゃないかという話になりました。有識者会議を立ち上げたところ、今の子どもは自分の意見を言ったり、自分で考えて行動するのが苦手だという指摘があり、子どもがいろんな人と協働する教育をデザインすることになりました」

 学びの変革と銘打った改革が始まり、寺田さんが担当課長に就いた。そこで出てきたのが広島叡智学園の授業のスタイルでもあるアクティブ・ラーニングだ。

「当時は文科省中央教育審議会でもアクティブ・ラーニングを含む新しい学習指導要領についての議論が始まってすらいない段階でした」(寺田さん)

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