だが現場からは「教員の自主性、自立性と言われても無理ですよ」と言われるほどの逆風だった。

現場の足腰の強さ

 京都大学大学院の石井英真(てるまさ)准教授(教育方法学)は、県内のパイロット校でアクティブ・ラーニングの授業の支援をした。

「自由闊達な授業のためには、先生たちにも伸びやかさが必要です。でも最初、先生たちの授業は硬く、先生方自身の研修の様子も同じように硬かったのです」

 子どもたちと同じように、先生自身も学び合いに挑戦することで、教員は変わってきた。

「授業をどう改善していけばいいのか、先生たちはグループワークをして話し合ううち、『今カフェで話すみたいに楽しくしゃべってたけど、これくらいのテンションでもいいんだ』『そうか、うまい話し合いでなくていいんだ』と先生たちの考えがほぐれていきました」(石井准教授)

 県内各地でアクティブ・ラーニングの授業の浸透を目指しながら、旗振り役として作ったのが広島叡智学園だった。

「突き抜けた学校で、アクティブ・ラーニングの授業を実践してもらい、県内の先生が叡智学園を視察に行く予算を措置しました」(寺田さん)

 そして、元リクルートで横浜市の民間人校長を務めた平川理恵さんが2018年にやってきた。平川さんは横浜市の公立中学校時代の経験を元に、不登校の子どもの支援など、さまざまな改革を実行。全国放送のテレビでインタビューされるほど注目を集めた。

 広島の教育改革は、広島以外でもできるのか。前出の京都大学の石井准教授はこう考える。

「広島の人たちの底力があった上で、改革という風が吹いたのではないかと思います。不登校支援等は平川さんの発想の先進性と実行力によるもので、他の地域でも一定程度、実行可能だと思います。ただ、学びの着実な変革については、簡単ではないでしょう。例えば、東京では中学受験が盛んで、早い年齢から塾に行ってコスパよく勉強する風潮が強く、人によって志望校も違い個別性が高い。その点、広島は共同性も高いし、人口減少の危機感も手伝って、地域コミュニティーの支援があったりと、現場の足腰の強さがあって改革が進んでいる面もあるのではないでしょうか」

(編集部・井上有紀子)

AERA 2024年9月30日号

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