全校生徒は255人。生徒の4割が県外出身で、全寮制。制服はあるが日常的に着なくていい。中学の入学者選抜は、面接や2泊3日のグループワーク。高校からは外国籍の子どもも入学できる(写真:編集部 井上有紀子)
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 アクティブ・ラーニングの実践、ジェンダー・ギャップ指数の教育分野で全国1位など、広島県の教育改革が成果を上げている。AERA 2024年9月30日号の記事より。

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 瀬戸内海の離島、広島県の大崎上島(おおさきかみじま)を9月、記者は訪れた。広島市中心部から港まで高速バスで1時間半。船に揺られて30分。

 たどり着いたのは広島叡智学園中学校・高校だ。建物に入ると、木の香りがした。平屋で、壁や床は木材。大きな窓から明るい光が入った。学校の校舎とは思えなかった。授業のない空き時間には、生徒が一人、芝生で寝転んで考え事をしていた。

 教室には扉がなく、完全に仕切られていない。ある教室ではQS世界大学ランキング17位の香港大学の担当者が、生徒に大学の説明をしていて、その様子は離れた場所からもうかがえた。

 離島の学校に、なぜ香港大学のスタッフが来たのか。この学校は、中高一貫の国際バカロレア認定校だからだ。

 この学校は県立だ。開校6年目で、来春は1期生が卒業を迎える。海外の一流大学への進学を目指す生徒もいる。そんな叡智学園には、全国から1年で千人の視察がやってくる。取材した日は、関西から市議会議員団が来ていた。

「研究って楽しい」

 高校2年の英語の授業を取材した。この日のテーマは、スピーチの原稿を書くときに必要な条件。ネイティブの講師の呼びかけで、生徒たちはグループに分かれて、どうすれば英語で伝わるプレゼンができるか話し合い、クラスで発表した。

 この学校の授業は、板書だけではない。仲間と調べて、考えさせる。教室と教室の間には、広い空間があり、広いテーブルが置かれている。時には生徒たちは広場にあるテーブルを囲んで話し合い、図書館に移動して調べることもあるという。

 高校2年の橋本智泉(ともみ)さんは、千葉県出身。英語を学ぶ環境が整っていることに魅力を感じて入学した。

「この学校では、自分のしたいことにまっすぐ歩く人がかっこいいです」

 満足したのは、英語を学ぶ環境だけではなかった。

 中学卒業時に、自分の興味関心を掘り起こしてレポートを作る授業が週に1回ある。橋本さんは植物と生物と農業に興味があり、土壌に化学肥料を入れすぎる環境問題を自然の力で解決することに魅力を感じて、実際にバクテリアの一種の根粒菌がどれくらいマメ科の植物に影響を与えるのか実験してレポートに書いた。

「地域の方に協力してもらって、専門家の意見も聞くことができて、研究って大変だけど楽しいなと思いました。文系か理系かに分かれず、文理が混ざった勉強ができるのに、大学進学も問題ないというのも魅力的です」(橋本さん)

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教員も試行錯誤