株式会社「エクストリームフィルム」代表取締役:星野和子さん(29)/映画とお店Tシャツが好き。写真は渋谷「魚力」のTシャツ。「『その格好で会社ですか』など同僚の冷ややかな声もまた楽しいです(笑)」(写真:本人提供)
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 着る人も見る人も、笑いとともに脱力させてくれる「変T」。その「変さ加減」を競うかのようにSNSでも人気だ。背景を探った。AERA2024年9月23日号より。

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 しつこく続く暑さ。ウワサでは少なくとも9月中は「夏」だとか。しばらくはまだ半袖Tシャツのお世話になりそうだが、そのTシャツで昨今、選択肢の一つとなっているのが変なTシャツ、いわゆる「変T」だ。

 なぜかミョウガや、松本清張先生のドアップだけがプリントされたもの。「確定申告」とだけ書かれたもの。思わず噴き出すものから、「なんでだよ」とツッコむしかないものまで、数限りないバリエーションSNSなどで話題になっている。

 なぜ、人はそんな変Tに惹かれ、着るのか。取材してみた。

「ヘンテコなTシャツ収集が趣味です」

 そう話すのは、愛知県在住の深夜さん(39)。きっかけは、小学校の部活動で子どもたちにバスケットボールを教える機会があったことだという。

「コミュニケーションのきっかけにと思って着始めたのですが、子どもには抜群に受けが良くて。毎回同じものを着ていくのもと思い、面白いTシャツを見つけるたびに買い始めたんです」

「推し活」に近いもの

 実は深夜さん、本業はオペラ歌手。「人とは違う、変わったことをしたい」という思いはいつもあり、変Tに惹かれていったという。いまは十数枚のお気に入り変Tを楽しむ日々だ。

「Xで話題のものなどではなく、あまり人が着ていないものを探すのが好きです。顔がコワいとよく言われるので(笑)、『面白い人だな』と思ってほしいという気持ちもありますね」

 特定分野の変Tを楽しむ人もいる。東京都で映画の宣伝・配給に携わる星野和子さん(29)のお気に入りは映画と、中華料理屋などのお店Tシャツだ。

「好きな映画、たとえば『食人族』というグロ系のTシャツなど60枚ほど持っていて、よく着ます。あとは中華料理など、好きな食べ物屋さんの名前が刷ってあるものなどを20枚くらい。とくに餃子がデザインされているものは必ず買います」

 なぜ、変Tを集めるのか。星野さんにとっては、「推し活」にかなり近いものだという。

「その映画や店が『好きなんだ』という気持ちを、無意識にアピールしたくて着てるんだと思います。映画館に映画のTシャツを着ていくと、知らない人とすれ違う瞬間、『わかる、その映画いいよね』みたいな空気感が流れたりするんです。そういうところもいいなと感じています」

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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あえて着てる感