クリエイター:岡 香里さん(34)/「岡ちゃん@奇Tクリエイター」の名前で変Tを制作・販売している岡さん。自作の「修学旅行」で大阪城へ。「汎用的にどこでも行けるので重宝してます」(写真:本人提供)

「規制」からの解放

 一方、SNSでは変Tについて多くの人が話題にしていることは、渡辺さんも確認している。

「そこのギャップが、逆に面白いとも感じますね」

 若い世代にも、おしゃれが好きで「とんがった格好」をしている人が一部に存在する。ただ、渡辺さんは学生たちに、「悪目立ちするのは怖い」という傾向を感じるという。

「『いまこれが旬』みたいな情報はちゃんと取り入れる。でも激しく逸脱したり、個性を主張することには関心を寄せません」

 そんな若い人たちが、なぜ変Tに──あまり着て歩かないにしても──SNSなどでは興味を示し、話題にするのか。渡辺さんは「みんな、息苦しさを感じているのでは」と分析する。

 SNSでは「こんなファッションはアリ」とか「40代にもなって女性がロックTシャツなんて」など大量の情報が飛び交う。若い人は「他人から見て自分がどう映るか」を意識するので、それらを絶えずモニタリングし、自分の立ち位置を不安定ながら維持しようと努めているのだと、渡辺さんは言う。

「そんなときにSNSで変Tを見て、『なんだ、こういうのでいいんだ』と、自分の中で作ってしまっていたファッションのあるべき『規制』みたいなものから変Tがフワッと解放してくれて、和める。そんな感じかもしれません。潜在意識としては、『変Tを着て歩きたい予備軍』と言えるかもしれないですね」

二度見やガン見もOK

 もっと変なTシャツを着て外に出よう。そう強く訴える人がいる。クリエイターの岡香里さん(34)。岡さんはこれまで100種類以上の変なTシャツを制作、ネットで販売もしている。

「一般的な評価としては『変』に分類されるものだと理解はしますが、私自身は素敵なTシャツだと思って着ています」

 素敵なものを外に着て出ないのはもったいない。着たことで二度見やガン見されるのもいい。コミュニケーションのきっかけになり、人気者になってもらえる。そんなTシャツを今後も作りたいと、岡さんは言う。

「最初は着るのに勇気がいる場合もあるかと思いますが、着てみて、いい思い出が作れたらあとは病みつきですよ。変なTシャツを着る勇気を出す瞬間は、人生で一度しかない。そんなのすぐに突破しちゃえばいいじゃん!と私は思います」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2024年9月23日号

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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