聖光学院中学校高等学校校長・工藤誠一。東大合格者数が100人となった聖光学院は今年、メディアでも注目を集めた。校長・工藤誠一の地道な改革が実を結びつつある。勉強漬けのカリキュラムではない。キャンプに宿泊旅行、文化祭など、多くの行事を用意し、工藤自らも楽しんで参加する。工藤が目指すのは、優秀で目配りができて、思いやりのある子を育てること。ぬくもりを伝えられる人になってほしいと願う。
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横浜・山手の住宅街を抜けた高台にある聖光学院中学校高等学校の校舎は、漫画「ドラゴン桜」のモデルにもなったしゃれた建物だ。放課後、工藤誠一(くどうせいいち・68)と一緒に校舎を歩くとすぐさま生徒たちから「校長先生、何してるんですか」と声が掛かった。工藤も「写真撮るんだよ。一緒に写るか」と気さくに応じる。
「朝、すごく早くから学校にいるよね」と生徒たちに言われるほど、工藤はエネルギッシュで勤勉だ。出張がなければ6時過ぎには出勤し、オンラインで英会話のレッスンを受けるのが日課。高2の金子一哉(16)は「よく校内を歩いているし、直接話すことも多い」と言う。
中高一貫の男子校である同校の東大現役合格者数は2024年度、86人。現役合格率は約4割と、合格者数1位の開成高校の3割弱を大きく上回る。だが生徒が勉強漬けの毎日を送っているかと思えばそうではなく、年間スケジュールにはキャンプや宿泊旅行、中高合同の一大イベントである聖光祭(文化祭)などの行事がめじろ押しだ。
生徒会長の桑島大志(17)も「聖光はとにかく行事が多い」と話す。桑島の代は、コロナ禍の中で中学時代を過ごしたが「校長先生が意地でも行事を中止しなかった」。このため高1になると、修学旅行など延期していた行事が一気に入り「年5回くらい宿泊旅行に行きました」。
釣りやダンス、里山歩きなど好きなことに挑戦できるテーマ別の講座「聖光塾」や、少人数で器楽や書道などの芸術科目に取り組む「選択芸術講座」など、教養教育の場も多数設けられている。工藤は言う。
「『成績』というたった1本の旗を取り合うのではなく、ひとりひとりが得意分野や個性に合わせて自分の旗を取りに行けるよう、さまざまな舞台を用意しています」