TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽や映画、演劇とともに社会を語る連載「RADIO PAPA」。今回はガス・ヴァン・サント監督の配信ドラマ「フュード/確執 カポーティ vs スワンたち」について。
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1960~70年代のアメリカにはため息が出る。陽につけ陰につけ、あれ以上ドラマティックな時代はなかった。それを自負しているのか、向こうのクリエイターは腕によりをかけて「時代」を描く。
今回その中で出色の作品に出合った。それは「フュード/確執 カポーティ vs スワンたち」。『ティファニーで朝食を』で知られる作家トルーマン・カポーティとニューヨーク最高峰のセレブ妻たちとの間で起こったスキャンダラスでゴージャスな実話を名匠ガス・ヴァン・サントがメガホンをとって映像化した。
カポーティはセレブ妻を「スワン」と呼ぶ。「美しく優雅な社交界という池を滑らかに漂っている。だが、心中は悩みばかり。浮くためにアヒルの2倍速くバタ足している」
一方、セレブたちは小男の流行作家カポーティを「同性愛者の宮廷道化師」とバカにしていた。宮廷とは自分たちこそアメリカの王族という意識があったからこそ出た言葉だろう。
ただ双方とも表面上は大の仲良し。フレンチレストラン「ラ・コート・バスク」のランチに集ってはハイソサエティの噂話や諍いに花を咲かせ、夫や家族に関するプライベートな悩みをカポーティに話していた。
ランチといえど彼女らは大酒を飲み、タバコを吸い、店の者を下男のように扱う。行儀が悪いのがお洒落とでもいうように。
同席したカポーティの恋人兼マネージャーは耳打ちする。「金の山だ。あのランチはとんでもない鉱脈だ。書け」
カポーティは「彼女たちの社交を書くのは『冷血』より難しい。針穴に糸を通す繊細さが必要だ」と言いながら、じわじわ彼女たちの真実に詰め寄っていく。