〈(治験の)試験デザイン、閾値の設定等には問題点があることから、事前に設定された有効性の主要及び副次評価項目の結果のみに基づき本品の有効性が認められたと結論することは困難であると判断した〉とあるのだ。

 にもかかわらずなぜ、承認をされたのか、そこが本の後半部の要諦となった。

 私が『がん征服』を取材していたとき、いつも疑問に思っていたのは、なぜ日本のメディアは1800人の規模の治験で有効性を証明した「レカネマブ」に対して懐疑的で、たった19例で承認されたがん治療薬を、盲目的に礼賛するのか、ということだった。

 レカネマブに話を戻せば、エーザイはその後もオープンラベル・スタディといって、治験の終わった患者に長期投与をし、36カ月時点での結果も7月末の学会で発表をしている。

 それによれば、投与の期間が長ければ長いほど何もしない人に比べて差が拡大し、病気の進行について「意味のない差」とはいえないほどに進行はくい止められているようにみえる。

 ただ、このオープンラベル・スタディで、3名の死亡例があった。いずれも抗血液凝固剤あるいは血栓溶解剤を併用していた。日米では処方箋でこれらの薬との併用をさけることという注意喚起をしたうえで承認をしたが、欧州医薬品庁はこれを問題としたのだろうか?

 エーザイは、「レカネマブ」の非承認の通知に対して、再審議願いを出した。今後数カ月で、欧州医薬品庁は新しい委員も迎えたうえで、再審議をするが、提出されるデータはこれまでと同じ治験のフェーズ2とフェーズ3のデータだ。

 イーライリリーの「ドナネマブ」も同じ作用機序の薬で日本でも8月1日に承認の答申が出されたが、「ドナネマブ」の場合、フェーズ3で薬の副作用による死亡例が3人いる。だから欧州の今の基準では到底承認されないだろう。

 そうなると、欧州の各国のみ、アミロイドβ抗体薬は使えなくなるということになる。

 EU各国は欧州医薬品庁の決定に縛られず、その国独自の承認もできるから、仮にそうなれば、エーザイはドイツやフランスなどのEUの大国での承認を働きかけることになるだろう。

 いずれにせよ、欧州の動向は、今後のアルツハイマー病治療の行く末を考えるうえでとても大きな問題だ。

AERA 2024年8月26日号