欧州医薬品庁が出した「レカネマブの市販承認に対する拒否」という2ページの文書。
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 エーザイの抗アルツハイマー病疾患修飾薬「レカネマブ」の普及に黄信号がともっている。

 米国、日本、中国、韓国、イスラエルと順調に承認国を増やしてきた「レカネマブ」だが、欧州医薬品庁(European Medicines Agency)が、7月25日、「レカネマブ」の承認について拒否の判定を下したのだった。

 欧州医薬品庁の場合、EU加盟の各国から委員が出てきており、その委員会が、外部の識者から構成される科学諮問グループ(SAG=Scientific Advisory Group)の答申をうけて、承認の可否について決定する。

 議事録、委員の名前等は公表されず、公になっているのは「レカネマブの市販承認に対する拒否」と題する2ページのレターだけだ。

アルツハイマー病をめぐるニヒリズム

 8月2日にはエーザイの四半期ごとの会見があった。日本のメディアのこの欧州での承認拒否に対する関心は低く、人影もまばら、この件について質問をしたのは私だけだった。

 日本は承認されているのだから関係ない、ということだったのだろうが、私はこの件はとても重要だと思っていた。

 それは「レカネマブ」について私が否定的見解をもっているからではない。

 この欧州医薬品庁のレターは、非承認の理由を〈レカネマブの有効性が、薬による深刻な有害事象のリスクにみあうものではないため〉としている。しかし一方で、〈治験の副作用のほとんどのケースは重篤なものではなく、症状もなかった〉とも書いている。

 いったいどっちが本当なのか、この文書を読むものは迷うだろう。その根拠を探していくと次の一節が非承認の根拠のように読める。

〈しかし、入院を必要とする広範囲の(脳内の)出血を含む深刻な事態が何人かの患者に起こった〉

 エーザイは治験の副作用の結果を公表している。それにもとづいて書かれた医学論文「早期のアルツハイマー病のレカネマブ」(The New England Journal of Medicine,November29, 2022)をみると全体像がよくわかる。

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