あんな現場はあのときだけ
『RENT』の登場人物たちは、荒削りだけれども、もがきながらも伝えたい思いを持っているので、一番年下の僕は『RENT』っぽいなと思いながら、見ていました。あんな現場はあとにも先にもあのときだけ。ぶつかりあいながら、作品を通して1つになることを教えられた気がします」
「RENT」はそれまで出演してきたミュージカルとは「まったく違った」。自分の思いをどこに向かって発信してもいい。こんな表現もあるのか。そんな発見が無数にあった。自分の体の全細胞が、まるで手の先から足の先まで反応しているようにしっくりきた。
「脱皮」と苦しみの始まり
「体をこう動かしたら絶対カッコイイとか、ここまでは絶対に動いちゃいけないなとか、どう動けばいいのか、どう気持ちが動くのか、すべてが見えてきたんです。この作品に出演したことで、自分のパフォーマンスの『見せ方』がわかり始めました」
俳優として「脱皮」を遂げた。だが、同時にそれは、俳優としての苦しみの始まりでもあった。
「たとえば、赤い花ひとつとっても、何百、何千と種類があるじゃないですか。でも、『これが赤なんだ』というものを見てしまったら、少しでも色が違うと、『これは赤ではない!』と思ってしまう。同じように『RENT』で作品づくりの確固たるものが見えたから、そのあとどんな作品に対しても、『これも違う』『あれも違う』と10年以上もがき続けていた気がします」
26年ぶりにマークを演じる
だが、さまざまな人や作品に出合い、歳を重ねていくなかで、少しずつ柔軟になっていった。自分を認められるようになっていったことも大きいという。現在の八面六臂の活躍は誰もが知る通りだ。
昨年、再び「RENT」のマークを演じることが決まった。自身を変えた「初演」から26年。今回は日米合作だ。ブロードウェイを中心に活躍しているキャストと共に、全編英語での上演になる。
喜んで出演を引き受けたのかと思ったら、「意外だった」と戸惑ったのだという。