『生きることのはじまり』(1980円〈税込み〉/人々舎)障碍者だけのパフォーマンス集団「態変」を主宰する金滿里さんが自ら綴った半生記。「舞台では座長としての背負い方がありますが、この本は個に近く、私から出て私にしか書けないもの」。新装復刻本では寄稿とあとがきが加わった。チャーミングで重厚な造本に心つかまれ、その壮絶な半生で得た深い気づきが生きる力となって読む人に向けられる。傍にあると嬉しく、心強い一冊だ

 その目線はやがて「地べたのまなざし」として、金さんが主宰する「態変」の、重度の障碍を持つパフォーマーたちによる前衛的な芸術活動につながっていった。

「地べたは人間が接する土台の底辺。誰もが共有し、安定しているところでありながら実はよく見えていない。健常者は足の裏ですが、私の場合はお尻。重度の障碍者が低い視線から見ているものを世界観として、身体表現で届けるのが態変の舞台の作り方です」

 この40年を超えて続く活動で、金さんを支えるのは「24時間他人介護による地域での自立生活」だという。本のタイトル『生きることのはじまり』の起点で、後半の章では運動組織を抜けて個として地域に飛び込み、障碍者の自立生活を問い直していく道のりを克明に描く。基盤は「介護者との関係性」と言葉に力を込める。差別の構造を見据え、いかに対等に付き合うか。

 あとがきには、7月26日相模原施設障碍者殺傷事件の犠牲者の命日に追悼アクションを行うようになった思いや、他人の介護のすすめも書く。介護は〈内面化する差別に気づく〉機会になり〈それを問題にする強い信頼関係を作って行かなければ〉と。

「私の自立生活は来年で50年。介護の人にも、粘り強く関係性を問いながら、あきらめずに信頼を構築していきましょうと伝えています」

 対等な人との関わりは誰しもが望むことではないか。そう生きる道を本書で示し、身をもって実践している。

(ライター・桝郷春美)

AERA 2024年8月5日号

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