■50年超の歴史と経験の蓄積を味わう
その岩合さんの「50年以上」の歴史と経験をより明確に感じられるのが、同時開催されている写真展、「What a Wonderful World -この素晴らしき世界-」だ。
動物写真家を目指す原点となったガラパゴスに始まり、北極、南極、アマゾンにサバンナ……地球そのものを感じるような、生命に満ちあふれた写真の数々に圧倒されて、一枚一枚の前から離れがたくなる。地球の未来を担う子どもたちにもぜひ見てほしい作品ばかりだが、なかでも個人的に心惹かれたのが、タンザニアのンゴロンゴロ自然保護区で撮られたものだった。
おなかを見せて横たわる母ライオンの乳に吸いつく2匹の赤ちゃんライオンを、見守るかのような一枚。よく見ると遠くの山に夕日が沈んでいく瞬間で、その光の美しさとあたたかさも、母子を包んでいる。母子にいっさい警戒の色はなく、リラックスした自然な姿に、頬がゆるむ。
そう伝えると、「そこを見てもらえるのはうれしいなあ」と岩合さんは笑顔になった。「あのライオンはね、セレンゲティに住んでいたころに、1カ月半ぐらいずっと、毎日毎日つきあっていた家族なんです。僕の車のこともよく知っていて、そばに寄っても大丈夫だってわかっている。だから、本当に真下、すぐそこにいるんですよ。あんなに寄ってしまうとライオンが嫌がるんじゃないか、と思われるかもしれないけれど、50 日ほど一緒にいたから撮れた写真だということをわかっていただけたらうれしいです」
アフリカでは、ネコ科の動物、とくにライオンを見つめつづけてきたという。米「ナショナルジオグラフィック」誌の表紙を日本人として初めて飾った写真も、ライオンの親子だった。
「ひょっとしたらネコよりもライオンの気持ちのほうがわかるかも」といたずらっぽく笑う岩合さん。「最近のネコってすごく複雑だからね。人と深く関わりすぎちゃっているから、イヌのようになってきた。ライオンも複雑ですけど、でも、ライオンのほうがより『見える』気がします」