【写真】野生動物を絵画のように捉えた作品からネコのドアップまでが並ぶ展示
この記事の写真をすべて見る魂の故郷と呼ぶアフリカの野生動物から、ライフワークといえるネコまで、日本を代表する動物写真家の50年以上の歴史や経験が深い味わいとなった、「一生に一度」を含む史上初の3写真展が同時開催中だ。
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川を渡り終えんとするアフリカゾウの群れ。ひょいと持ち上げられた子ゾウの足。そのお尻をそっと押すかのような、母親らしきゾウの鼻。よく見ると群れの大人たちは子を守るように前後を囲んでいる。美しいS字ラインを描く川に、岸辺の緑と岩とが彩りを添える――。
「絵画のような写真を撮ろう」と意識したという岩合光昭さんの写真展「Masai Mara」が、東京・品川のキヤノンギャラリーSで開催されている。
こちらの思うように動いてくれるはずもない野生動物。その貴重な一瞬を捉えるだけでも、けっして簡単なことではないが、さらに「絵としての舞台を大切に」したのだと岩合さんは語る。
「僕の視点があちこちに移動していって感じたことを、写真に取り込みたいと思った」との言葉のとおり、見れば見るほどに、発見がある。まず1メートルの距離でじっくりと見つめたあと、顔を10センチほどまで近づけてディテールを味わい、最後に3メートルほど引いて写真全体を眺めた。そうすることで、より絵画的に味わいが変わり、岩合さんが感じたアフリカの風までもが吹いてきそうな気がする。
展示作品が撮影されたのは、昨年6月。「キヤノン/ WWFカレンダー2024 Masai Mara」のために、ケニアのマサイマラ国立保護区を訪れた。
岩合さんは1982年から84年にかけて、ケニアの隣国タンザニアのセレンゲティに滞在。野生動物の姿を捉えた前例のない写真で世界に広く名を知らしめた。そのセレンゲティとマサイマラとは地続き。岩合さんにとってアフリカは「第二の故郷」であり、「魂の故郷」でもある。
今回の撮影地にマサイマラを選んだ理由には、ファシリティーといった物理的な側面もあるが、「マサイマラの動物たちは人にも車にも慣れているから撮りやすい」ためでもある。「同じ地平線なんだけど、セレンゲティだと動物に近づくのに日にちがかかるんです」
だが一方で、観光化が進んだマサイマラでは、制約も大きい。