函館市電:明治30年に開通した亀函(きかん)馬車鉄道がルーツ。沿線に絵になる歴史的建造物や坂道があるのが特徴で、市電の背後に函館港が広がる

 日本初の本格的LRTが走ったのは富山市。06年、赤字のJR富山港線をLRT化し、第三セクター「富山ライトレール」として運行を開始した。駅を新設し、乗り場をバリアフリーにしたりして利便性を高めていった。今では金沢市や神戸市、那覇市などでLRTの導入が検討されている。先の松本さんは、「LRTは誰もが利用しやすい公共交通」だとしてこう語る。

「歩道→横断歩道→停留場の安全地帯→車両と最小限の動きで移動できる。車両の床面もフラットな構造が増え、利用しやすい。また、エネルギーの観点からすれば、電力による路面電車はクリーンで、さらに電力回生などによるさらなる効率化も期待できる。明日の公共交通としてふさわしい」

社会支えるインフラ

 冒頭の宇都宮LRTが開業したのは昨年8月。沿線にはホンダやキヤノンなどが並ぶ工業団地が複数あり、朝夕、周辺の道路は通勤の車で渋滞が発生していた。解消策として30年ほど前から新交通システムが検討され、整備費などの観点からLRTに絞り込まれた。

 開業から約1年。宇都宮LRTを運行する「宇都宮ライトレール」によれば、3月末までの利用者数は約271万人と、当初見込み(約220万人)の約1.2倍となった。同社経営企画部係長の宮崎拓(たく)さんは、次のように話す。

「通勤・通学はもちろんのこと、ライトラインが日常の交通手段として定着し、その利便性から、多くの方にご利用いただいていると認識しております」

 国内外の公共交通に詳しい関西大学の宇都宮浄人(きよひと)教授(交通経済学)は、「LRTは街づくりの一つの装置」と評する。日本の地方都市の多くは車が中心になっていて、都心から郊外に無秩序に市街地が広がるスプロール化が進行している。車が多いと渋滞があり、事故も起き、二酸化炭素の排出も減らない。社会的な負荷が増し、持続可能な社会の構築につながっていない、という。

「一方でLRTは、バスと異なり時間が正確で、大量輸送ができます。しかも、バリアフリーで快適。車を運転できない交通弱者だけでなく、運転する人も街中の渋滞を気にしなくていいので自由度が増します。さらに、郊外に広く薄く住んでいた人たちが、自然に沿線に誘導され、人口集積をもたらす機能もあります」(宇都宮教授)

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