宇都宮LRT:車両は低床で、停留所のホームとの段差はほとんどない。窓は広く、落ち着いた間接照明の光も快適。片道14.6キロを約1時間かけて走る
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 かつて「邪魔者」扱いされていた路面電車が復権している。いま注目の「LRT」をはじめ、全国約20の街を快走する。街づくりの装置としても期待される、その魅力を紹介する。AERA 2024年7月15日号の記事より。

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 まるで滑るように、黄色と黒の車体が宇都宮の街を走る──。

「揺れもほとんどなく快適です」

 6月上旬、JR宇都宮駅東側と郊外の芳賀町(はがまち)を結ぶ、次世代型路面電車「芳賀・宇都宮LRT(通称、宇都宮LRT)」に乗ると、向かい合わせのボックス席に座った70代の女性は笑顔で話す。

 全長14.6キロ。市街地を抜け、鬼怒川周辺の田園風景を望みながら進み、工業団地の間を快走する。LRTは「Light Rail Transit」の略で、「次世代型路面電車」をいう。従来の路面電車より、床が低く高齢者や車いすでも利用しやすく、振動や騒音も少ないのが特徴だ。

 先の女性は、以前は車で移動していたが、年も年。そろそろ運転が難しくなるだろうと考えていたという。今日は、駅前のビルに買い物に来たのだという。

「前より外出するようになりました(笑)」(女性)

街並みとのマッチング

 いま路面電車が復権している。そもそも「路面電車」とは、道路上にレールのような軌道を敷き、自動車などと一緒に交通機関として運行する電車のこと。法規的には、一般の「鉄道」に対して「軌道」と呼び、基本となる法律も「鉄道事業法」と「軌道法」とで異なる。

 日本の路面電車は1895(明治28)年に営業を始めた京都市から全国に拡大した。戦前の1932(昭和7)年には、全国65都市で総延長は約1500キロに上った。

 だが戦後、モータリゼーションが進み道路で大渋滞が発生すると、原因として路面電車がやり玉に挙げられた。路面電車は「邪魔者」扱いされ、「時代遅れ」の烙印を押され、高度経済成長の60~70年代にかけ、次々と消えていった。代わりに、地下鉄やバスが都市の公共交通の主役となっていった。

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