そうした中、90年代に入ると路面電車は見直されるようになった。現在、北は札幌市から南は鹿児島市まで、約20都市で運行され、総延長は約220キロに及ぶ。
鉄道ジャーナリストの松本典久さんは、「身近な公共交通手段になっている」と路面電車の魅力を話す。
「利用している乗客同士の距離感が近く、運行速度も車窓を眺めるのに適当な速さがある。旅先で利用すると、その街を近くに感じることができます」
たとえば、北海道函館市を走る函館市電は「街並みとのマッチングがいい」と言う。函館山の麓や五稜郭公園といった観光名所と函館駅などを結ぶ総延長約11キロの路面電車だ。
「特に函館駅前から函館どつく前に向かう区間は、坂の上から見下ろすと市電の背後に函館港が広がり、函館らしい情景が楽しめます」(松本さん)
東京の街と文化を多面的に感じることができるのは、「都電荒川線(愛称・東京さくらトラム)」だ。東京北部の12.2キロを約1時間で結ぶ。
下町情緒が残る三ノ輪橋(荒川区)を起点に、大塚駅前(豊島区)などを経由し、そびえ立つ超高層ビル「サンシャイン60」の近くを通り、学生たちで賑わう早稲田(新宿区)まで、東京ならではの風景を味わえる。
路面電車は、そこに暮らす人々にとって欠かせない存在でありシンボルでもある。
沿線住民から「チン電」と親しみを込めて呼ばれているのが「阪堺(はんかい)電車」だ。
ナニワで唯一の路面電車で、阪堺電気軌道が運営している。通天閣にも近い恵美須町から堺市西区の浜寺駅前までを結ぶ「阪堺線」と、大阪市阿倍野区の天王寺駅前から大阪市住吉区にある住吉までを結ぶ「上町線」の2路線がある。
注目の「LRT」
15年ほど前、利用客が減り阪堺線の堺市内の区間は廃線の危機に直面したが、堺市が2011年度から10年間で総額50億円の経営支援をすることで、存続が決まった。地元の人々に支えられ、今も地域の足として活躍している。
そして今注目されているのが「LRT」だ。