地域を巻き込むコツは最初の一人の理解者
ただ、「ぐりぐり」はこの3月で食事の提供を終了した。高田さんは試みを持続していくための課題点を挙げる。
「まずは、一つの外食店としての魅力がしっかりあることが大切。それを踏まえて、嚥下に配慮する食事を提供していく。飲食側、専門職側、当事者家族側が歩み寄る。そこまでの工程に、まだまだ課題だらけだと感じますね」
5月に神奈川県横須賀市にオープンしたインクルーシブカフェ「つばめのごはんや」は、管理栄養士と言語聴覚士で立ち上げた。週1回程度開催する。客として訪れた90代の女性がケーキを食べると、「これなら歯がダメになった私でも食べられる」と感激していた。
開所前は試行錯誤もあった。発起人の一人で、管理栄養士として病院に勤める名古亜貴子さんはこう打ち明ける。
「最初は、既存の飲食店で栄養士が監修したメニューを置いてもらえないかと頼んでみました。けれども、経営のことも考えなければならないし、医療の制約を受け入れてもらう必要もあって難しかった。だったら、店の経営は素人でも、私たち栄養士がカフェ作っちゃおうと。私たちは『暮らしの保健室』の食バージョンを目指しています」
山形県鶴岡市では、昨年から市内7軒の飲食店で嚥下食のメニューが食べられるようになった。地域のハブになっているのが、医療専門職らが立ち上げた「鶴岡食材を使った嚥下食を考える研究会」。今春新たに洋食店のシェフと「お子様ランチ」のメニューを開発。障害のある女の子が、「初めての外食」でパクパク食べ、家族も目尻を下げていた。それでも、最初の協力店を見つけるまでに7年要したという。
同会メンバーの一人で管理栄養士の足達香さんは、地域を巻き込むコツは「最初の一人の理解者」だと話す。
「最初の協力者が出てきたら、『それだったら、自分もできるかな』と協力してくれる人が急に増えた。万が一、誤嚥が起こったら怖いなど不安を持つ方もいらっしゃる。そこは食のプロが安心して取り組めるよう、医療職がバックアップする相談体制を作りました」