協力病院は取材に回答しなかったが、医師が警察に通報した可能性が高い。根拠は医師法21条にある。「(1)妊娠4カ月以上で、(2)死産児の状況に異状があった場合」には医師は警察に通報しなければならないためだ。ただし、異状とは、遺体を傷つけた形跡や流産や死産から日数が経過している(放置)など、犯罪が疑われる場合を指す。しかし女性に事件性はなかった。

 ほかにも、20年12月には、東京都品川区の知人男性宅で妊娠6、7カ月の女性が死産し、死体遺棄容疑により警察に逮捕されている(不起訴)。女性に対し、警察、司法、ときには医師までが保護ではなく加罰に動く。予期せぬ妊娠や赤ちゃんの死で心身に傷を負った女性が取り締まられる事態は、日本の法制度で認められるものなのか。

 ジェンダー法を研究する憲法学者の清末愛砂さん(室蘭工業大学大学院教授)に話を聞いた。

「まず前提として、女性の妊娠と出産を国がコントロールしてきた過去の歴史の影響が、令和の現在もなお残っています」

 清末さんによると、太平洋戦争中、国は堕胎を禁止し、敗戦により国全体が窮乏に陥ると一転して出生数のコントロールに動いた。人口急増を抑えることと、違法な堕胎により母体が傷つくことを防ぐことを目的に、1948年には優生保護法がつくられ、人工妊娠中絶は合法となる。中絶件数は55年には117万件にのぼった。

かわいそうと決めつけ

 この優生保護法下では、遺伝性疾患やハンセン病、精神障害がある女性に、不妊手術や人工妊娠中絶が実施されていた。同法は96年に改正され名称も母体保護法と改称された。だが、現在もなお、障害のある女性の妊娠出産について、「自分で育てられないのに無責任」「親が障害者なんてかわいそう」などの批判が出ることがある。

 遺伝性疾患で車いすを利用するある女性は、夫と話し合って妊娠出産を決断したが、「他者の手を借りながら幸せに暮らしているのに、母親がお世話できないなんて子どもがかわいそうと決めつけられることがある」と話す。そんなとき、女性は正しい母親像を押しつける圧力を感じるという。他人の妊娠出産をジャッジする空気は司法や警察に限ったことではないのだ。

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